田波さんちのチビとヨル/SUGAR「占い師とトーテム」

鑑定の現場において占い師は、クライアントを力づけたり、支援したりしてエンパワーメントする側ですが、逆に普段の生活では、「何に/どんな⾵に」エンパワーメントされているのでしょうか?

そんな占い師にとってのトーテム(=特定の集団や⼈物に結び付けられ、祝福や⽣命⼒を与えてくれる動植物のこと)について、同じ占い師のSUGARさんがインタビュー! 占い師としてこれまで活動を続けてこれた秘密や、根底にある占い観に迫っていきます。

自然と家族になっていた

占い師・古書店主
タナミユキさん

聞き手:SUGAR

記念すべき第一回⽬にお邪魔してきたのは⽥波家。東京郊外に⼀軒家住まいで、妻・⺟で占い師のタナミユキ(以下Y)さん、⼀緒に古本屋を経営している夫のKさん、息⼦のSさんに猫が二匹という家族構成です。

田波さんちのチビとヨル

⽥波チビ
元野良猫のオス、推定13 歳、茶トラ。このあたりのボス猫的な存在で、⾃宅近辺を縄張りとしているため、やってくる野良猫を追い払ってしまうのだそう。毎⽇のパトロールも⽋かさない(⼤⾬の⽇以外)。

⽥波ヨル
元野良の⿊猫オス、推定5 歳。チビのことを親だと思っている。飼い主いわく、「ネコっぽくないネコ」で「もはや妖怪」。

はじまりはなんとなく…

Y:なんとなく縁側の窓を開けると⼊ってきたのよ。

K:家の中をキョロキョロしてから、出ていったり。

Y:それを放置していたんだよね、こっちも。そしたら、ある⽇ブルブル震えている⽇があって、こっちも寒いと思って家に入れた後に窓を閉めたら、⼦どもにも静かに抱かれていたから、たぶんチビのほうも、うちらのほうも、「もういっか」ということになって。で、そこからは、家から出てはいくんだけども、毎⽇帰ってくるようになったの。

K:その頃は、仕事から帰ってきてからチビを1時間以上なでたりして、なつかせていたな。

――そんなに。お子さんも何の抵抗もなく受け入れた感じですか?

Y:⼦どもはそのとき11 歳で、まだ⼩学⽣だったから。ちょうど店をはじめる半年ちょっと前で、ネコが⼦どもと⼀緒にいてくれたから、家をあけるにもあけやすかったんだよね(※古本屋は2010 年8 ⽉開店)。それからもう12 年経つのよ。だからお店やってる年数について話すと、それがそのままチビの年齢でもあるわけ

――12 年というとちょうど⽊星の公転周期や⼲⽀⼀周分ですね。それから、もう⼀匹のヨルくんも元は野良だったんですか?

K:ヨルは雑司が⾕で拾ったんだよね(※お店があるのがそのあたり)。

Y:チビが7 歳とかになっていて、もし亡くなっちゃったら淋しすぎるねって話していて、もう⼀匹いるといいねって⾔ってたら、ちょうど友達がうちらに猫をもらわせようとしてきて。もう⼀匹を迎えるための準備を進めていたら、その⼦が⼼臓病とかで来なくなっちゃった。

K:そう、チャラになっちゃった。

Y:それで⽕がついて、ツイッターで「猫拾う」とか「保護猫」とかで検索していたら、その頃よく⾏ってたお弁当屋さんが、「家の⽬の前で猫が⼦ども産んじゃってすごい困ってる」「うちの奥さんが猫嫌いで夜も眠れない、どうしよう」ってツイッターでつぶやいていたの。それで連絡して、すぐに猫を⾒に⾏ったら、廃屋みたいなところでニャーニャー鳴いていて、⼀匹でブルブル震えていたの。それでそのまま飼うことになって。

K:これ、その次の⽇のヨルの写真。

ヨル

――これは……、確かに⾒つけたら連れて帰っちゃいますね。

K:すごいね、鳴き叫んでたんだよ。声涸らしちゃってて、コウモリみたいにキーキー鳴いてた。家でもずっと鳴きっぱなし。

Y:もうね、耐えられないくらいうるさかった。お弁当屋さんの奥さんの気持ちがわかったよ。

K:ちょうどS が⼤学受験だったの。ケージを借りて連れて帰ってきたんだけど、置くとこがS の部屋しかなかったから。

Y:いや、S が「俺が⾯倒を見るよ」って、引き受けてくれたの。でも、全然鳴きやまなかったんだけど、チビを⾒たときに急にハッってなったんだよね。⾃分からチビのほうに駆け寄っていって、そこからチビのうしろをついて回って、頼りにするようになったら少しおとなしくなって。

――先住猫の威厳ですね。オス同⼠でもそんな平和な関係になれるんだ…。

Y:それで、ヒーターの前があたたかいってわかったら、完全に大人しくなった。

K:確か10 ⽉頃だったと思うけど、ファンヒーターをつけたら、それまで緊張していたのに、いきなりコローンって転がりだしちゃって。他にもいろいろと⼿を尽くしたんだけど、結局ヨルにとってはチビとファンヒーターが安⼼のもとだった

――ヨルという名前はどうやってつけたんですか? すごくいい名前だと思ったんですけど。

Y:⾃分たちだけだったらクロってつけていたと思うんだけど、⼀緒に⾒に⾏った友達がすごい猫好きでこだわりを持っていたから、適当な名前をつけたらツッコまれそうだと思って、S とすごく相談してつけたのよ。やっぱり⾊に関する名前がいいかなとか。

K:俺だけならクロとかミケとかそういうわかりやすい名前にしちゃってたけどね。

――今だとアニメの『SPY×FAMILY』(集英社)の登場⼈物にもヨルって出てきますね。

Y:ああ、あれもそうだけど、当時S が漫画の『BLEACH』(集英社)を読んでいて、夜⼀(よるいち)っていう普段猫の姿をしている⼥性のキャラクターが出てきて、たぶんそこからつけたんだと思う。

K:いま絵本でね、『ヨルとよる』(教育画劇)っていう⿊猫が主⼈公のやつが流⾏ってるんだよ。それに、やっぱりシンプルな名前じゃないと呼び間違えちゃうから。

Y:だからうちのも本名はヨルイチなんだけど、動物病院だと恥ずかしいから「⽥波ヨル」って書いてる。

――ああ、正式名はヨルイチだったんですね。チビはチビ?

Y:チビはチビ太。動物病院でも「チビ太」だね。いかにも拾ってきた猫ですって感じだけど、それがいいかなって。普段呼ぶときは⻑いからチビだけど。

――でもこうして由来を聞くと、改めていい名前に思えてきますね。それに、ちゃんとその名前の感じがするのも不思議だなあ。

⼆匹と⼆⼈
ペットは飼い主に似てくるもの?!

――先ほど、絵本の登場⼈物の話や、なんとなく⾊に関する名前がいいかなって思っていたという話がありましたよね。ぼくも佐野洋⼦さんの絵本『100 万回⽣きたねこ』(講談社)が好きで、というかその絵本が占いの世界に入っていくきっかけになって。結果的に、絵本で主⼈公のトラ猫が出会ったような⽩い猫を飼っていたりもするので、いつの間にか⾃分のことを重ねて聞いていました。

Y:『100 万回⽣きたねこ』が? なんで?

――中3 の時の国語の先⽣が、その絵本を「ユング⼼理学的に読み解いてみよう」みたいな授業をしてくれたんですよ。それが⼼理占星術の扉を開くきっかけになったんですけど、よくそんな授業したなと。今考えると、その先⽣はロシア⽂学とかも好きだったりして、反体制的な思想が強い先⽣だった気がします。一時期まで私⽴の先⽣とかによくいた…。

K:けっこう、左翼運動から“⼤地の会”的なスピリチュアルに流れる⼈も多いよね。

Y:⼀時期とかではなく、いまだにうちの街はそういう気⾵が強いと思うよ。戦後の社会運動の発祥の地なんだよね。(※精神的、社会的な⾯も含めて、障害のある⼈や⾼齢者が⽣き⽣きと社会で⽣活できるようにするための取組みがなされてきた⻑い歴史がある)

――じゃあチビもそういう⼟地の気⾵で⽣まれ育ったネコなんですね。

Y:そう、地元猫。この周辺のヌシみたいになっちゃってるよね、きっとね。なんか年中おでこのあたりがハゲてるし。ケンカして。

K:わりとケンカが強いらしくて。

Y:ケンカの弱いネコってお尻がハゲてるんだって。

K:相⼿にお尻向けるから。

――あれって服従のポーズなんですか?

Y:そうそう、チビは強いからつねに頭を向けてくから、ハゲちゃうの。

――こう、グングングンと頭突きしていく感じ?

Y:いやもう、ヨルにする態度を⾒てると、パシッって感じ。⼀発で決める、相撲の曙みたいな。

K:ヨルもチビに対してはお尻向けるんだよ。⾃分から絡んでいって、チビの顔のところに⾃分のケツを置いたり。

Y:チビはよく⾒ると⼿⾜がすごくしっかりしてるのよ。ヨルはなんかロートレックの絵に出てきそうな感じで、ほっそりとしてながーいの。

K:ヨルは動きとかもネコっぽくないんだよ。

Y:そう、うちではキンカジューって呼んでるんだけど。

――な、なんですかそれは??

Y:なんか中南米のほうにいる、かわいい⽣きもの。

K:キツネザルみたいなところがあって、⼿の動きも妙に⼈間みたいで、アクセサリーとかも持てるんだよ。

Y:そう、頭がいい。あそこにネズミの⼈形が飾ってあるじゃないですか。いつだったか、私がひどく落ち込んでいたときに、あれをヨルちゃんが私の枕元に持ってきたの。なにか特別な⼦って感じがしたよ、その時に。

――そんなことされちゃったら、もうたまらないですね。

Y:でも逆に、家に置いてある宝⽯やアクセサリーを収集されて、ステレオの下からいっぱい出てきたって事件もあった。前は私が屋根裏で寝ていたから、屋根裏のベッドの脇に、ワインのコルクとかとにかくいろいろな訳のわからないヨルの収集物をどこかで拾ってきては置いてくれてたっけ。ネズミの⼈形のときは嬉しかったけど、やっぱり汚いもののときはうへーってなったよ。

――ヨルは基本的に家から出ない家ネコなんですよね。それでも、そうやって家の中から“宝物”を発掘してくるんだ。

Y:ただ、ちょっと変わってるから、チビが外からセミとか⿃なんかを連れてきたときは、 怖くて触れないから、そういうナマモノが枕元に置かれなかったのはよかった。

――そんなネコの話、はじめて聞きました(笑)

Y:わたしもはじめて(笑)お⽗さんもネコいっぱい飼ってきたけど、あんなんははじめて でしょ?

K:うん。

――それはやっぱり性格なんですかね。⽣育環境も関係してると思いますか?

K:ヨルはね、たぶん外で怖い⽬にあって拾われてきたから、怖いみたいで外には出ないというのも⼤きいんだと思うよ。窓から外を⾒てて、たまに開けるとスッと出たりはするんだけど、すぐ戻ってくる。前にヨルが外に出てるって気付かないで閉めちゃったら、体当たりでドーンドーンってガラスにぶつかってた。

――そこはチビとの⼤きな違いですね。

Y:ヨルは雑司が⾕から来てるから、ネコとしてのこのへんの⼟地勘もないだろうしね。

――そう聞くと、なんか戦争中に東京から⽥舎へ疎開してきた児童みたいですね。チビは⽥舎でもともと伸び伸び育った年⻑さんで。

K:チビのほうはね、すごいおっとりしてる、かなりいいネコなんだよね

Y:悪いこと何にもしないの。こういうところひっかいたりとか、外に出てるせいか何にもしてなかったんだけど、ヨルが来てから⼀気にお家が汚くなって。

K:スピーカーとかは完全にやられちゃった。

Y:ソファーもいま布をかけてるけど、ボロボロにされちゃったんだよ。とにかく、悪いことは全部やったよね。ヨルが。そのへんでおしっこしたりとかさ。

K:チビはね、特にしつけもしないうちから、何の問題もなかったんだけどね。帰ると⽞関に迎えに出てきてくれたり、寝てると乗っかってきてくれたり、なついてくれた。重いけど。

Y:『ねこのきもち』ってフリーペーパー知ってる? そこに、ネコに乗っかってきてほしいとか、出迎えてほしいとか、飼い主としてこんなことしてほしいみたいなことが⾊々まとめられて載っていたんだけど、チビはそれ全部クリアしてたからね。……ヨルは何にもしてくれないけど。

――(そんな話をしているうちに、チビがソファーに座っているKさんの膝の上へ)



Y:チビは膝の上に乗るのが好きで、ヨルは抱っこ好きなの。しかも、チビが膝の上に乗るのはお⽗さんと決まってるの。私はじっとしていられないから。

――あ、Kさん写真撮っていいですか?

Y:てかすごい、普段は誰か来てもなかなか出てこないのに。

K:やっぱりネコを飼っているからかな。

Y:変にバタバタしないからね。ネコを飼っている⼈は。

――なんか、⼼なしかKさんと顔似てません? チビ。妙におさまりがいいというか。

K:ふふふ、いやそれは……どうなんだろう。

Y:でも今⽇のチビ、⽬をはっきり開けてる〜。いつも写真撮ろうとすると微妙な顔になっちゃうのに!

K:すぐ⽬をそらしたりとかね。

Y:てか、お⽗さんとチビが似てるなんてあんまり考えたことなかった。でも、ヨルはそれこそ多動性ちっくだよね。だから、どちらかというと私に似てるよね(笑)

K:ヨルはね、いきなり何をしでかすかわからないから。急にとびついてきたりとか、変なところから⾶び出してきておどかしたりとかね。

Y:つねに意味のわからないことして、嬉しそうだよね。

――あの、Yさんもそういうところあるんですか?

Y:かなりだよね? ⼤⼈になってましになったけど。⼩学校から中学校までは、「注意⼒散漫」て書かれていたから。

――典型的な多動性ですね。じゃあ、その⼤⼈になってからというのは、いつ頃から落ち着いたとかあるんですか?

Y:……。そう⾔われるとずっと落ち着いてない気もするけど。でも⾼校が、習志野⾼校っていうんだけど、なんかわりと体育会系の⾼校で、みんな⼤会とかで教室にいないことが年中で、あんまりじっと座って授業しましょう的な⾼校じゃなくて。教室の下の窓から廊下へ出てって何か買いに⾏ったり平気でしてたから、その中では私はおとなしいほうだったの。何にも変わってなかったんだけど、みんながそんな感じでもっと多動的だったから。

――多動の⼈にはいい環境だったんですね。

Y:からだに合っていたのかもね。私は運動とか何にもしてなかったけど、美術部に⼊ってたらそのまま先⽣が美⼤に⾏かないかって⾔ってくれたし。公⽴なんだけど、全国から⽣徒が集まってきていたの。野球とかサッカーとかやる⼈たちのための寮があって。

K:習志野⾼校は吹奏楽部もすごいらしいね。なんか⾳圧が違うんだって。たぶん、基地 があるから、お⾦持っているんだよね。

Y:先⽣たちもそれぞれの個室があって、それこそさっきのSUGARくんの中学の頃の先 ⽣じゃないけど、みんな教科書使わないの。使うのは微分積分のところだけ。

――占い師同⼠で繋がってきましたね。ぼくも⼦供のころ多動だったんで、わかります。

Y:どうでもいいけど、こんなにみんなのいる前で活動してるチビは初めて⾒たよ。

――確かに脚もスっとしてるし、運動神経よさそう……。しっぽも⻑いし、ネコ科の猛獣的なしなやかさがありますね。でも、Yさんはそうやって順調に多動性がへんに抑圧されずに、美術という⽅向性へ繋がっていったんですね。今も絵は描かれてますもんね。

Y:美⼤には私より変わってる⼈いっぱいいたしね。みんな学科の授業なんて当たり前みたいに来なかったし。



チビはネコヘルパー≒占い師?

――ところで、チビはヨルのことをどう思っているんですか? さっきパシッとするときもあるって話でしたけど。どんな感じで接していて、お⼆⼈はそれをどう感じているのかなと。

K:やっぱ⼩さいヨルのほうを可愛がっちゃっていたから、ちょっと嫉妬したりもしてたよね。でも、あんまりイジメたりはしなかったかな。来たら払いはするけど。

――それだけでも、だいぶ徳が⾼いネコですね。

Y:あとヨルのことなめてあげたりもしているもんね。あのクレイジーなヨルをねえ、そうやってなだめて、落ち着かせているんだから⼤したネコよ。

――そう聞くと、⽥波家にとってのチビの存在は昔CSで番組をやっていたネコヘルパーのジャクソン・ギャラクシーみたいですね。

飼いネコが暴れるとか、しつけられないとか、問題を抱えているお宅に訪問して、課題を出したり、秘密道具を出したり、必殺仕事⼈みたいな感じで解決していくんですよ。スキンヘッドでタトゥーだらけの巨漢の男が。

まあタトゥーは全部彼が飼っていたネコでしたけど。ジャクソンが来ると、ネコと飼い主の関係だけでなく、家族仲まで良くなってしまう、みたいな。ほんとかよって話ですけど。

K:なんかそれ原作にして漫画にしたらおもしろそうだな。

Y:でもアメリカってすごい特殊だよね、考え⽅がさ。ちゃんと他者を介⼊させて、家の問題を解決するというさ。⽇本じゃ考えられないよね。でも、そういう⽂化を少しは取り ⼊れてみると違うのかな。

――それはそうかも知れませんね。⽇本社会ではどうしても「恥」という考え⽅が邪魔しますけど。

Y:占いもさ、占い師が家の中にまで⼊っていく訳ではないけど、⼈に⾔えないような悩みや問題について誰かに話して、他者の考えを聞く機会を持つって意味では、いいことだなとは思ってるの。

――占いとは何ぞやという話に繋がってきますね。つまり、チビのヨルへの接し⽅や⽥波家における在り⽅はどこか占い師に通じるところがあるかもしれない
そういう第三者的な、ニュートラルな関わりをしてくれる存在を招き⼊れることで、悩みや⽣きづらさが軽減することもある。そういう意味で、占いは意義があるんじゃないかという話ですね。

Y:占いの鑑定って、普通ありえないような状況の相談とか結構されるじゃない。それはあまり聞かない話かな、みたいな。

――クライアント本⼈も「どうしてこうなった?」って困惑しているからこそ、普通に友達に相談したりする代わりに、わざわざ占いに⾏くみたいなところはありますしね。

Y:極論なんだけどね、⼈間の悩みってつまるところ恋愛、仕事、家庭、妄想。この四つだと思うし、そういう⾵に同業者にはよく説明してるのね。私の場合、特に電話鑑定を⻑くやっていたというのもあるかも知れないけど。今から12 年前、計13 年くらいやったかな。
20 年くらい前に、⼩⽥和正と付き合っているんですけど連絡がなくて…って相談がきたこともあった。

――ジャニーズの⽅とか芸⼈さんはよく聞きますけど、それはすごく絶妙なところを突いていますね。

Y:もちろんそれは電話鑑定の話で、対⾯だとそこまで明らかに妄想とわかる相談はないんだけれど。逆に、〇〇っていうグループの誰々が好きで、どうやったら付き合えますかとか、具体的になってくる。

――それだと全然と⾔うか、わりかし健全ですもんね。

Y:ただ聞いているだけで占いもアドバイスも⼀切してないんだけどね。その代わり否定もしない。誰かに話していると、本⼈の中でだんだん具体的になってくるっていう⾯もあると思うし。

――(話が佳境にさしかかったところで、チビが移動をはじめ話題も再びネコの話に)



ヨルは忘れた頃にやってくる

――ここまでチビの話ばかりしちゃってましたけど、そういえばヨルのほうは、今⽇はまだ⾒かけませんね。

Y:昼はまず下に降りてこないから。⼆階で寝てるんだと思う。ヨルは興奮しちゃうと⽖とか⽴ててくるから、K さんなんて⼀時期引っかかれすぎてリスカの噂⽴ってたよね。

K:普通ネコってなでられるとじゃれたり、何か嫌なことされたら⼿を出したりしてくるでしょ。うちのヨルは、こっちが何もしてなくても、いきなり⾶びかかってくる。

Y:歩いていたらいきなり⾶びかかってくるんだよね。

K:部屋の隅のほうから、狙ってズダダダダってアタックしてくるんだけど、本⼈もその後どうやって結末をつけたらいいか分わかんない感じなんだよ。ただパンッってぶつかって逃げてくみたいな。

――かまいたちみたいですね。妖怪の。

Y:ヨルはかわいいんだけど、何の役にも⽴たないネコなのよ。まあネコってそういうもんだけどさ。チビが役に⽴つネコ様だからさ……。

――ああ。でも、何の役にも⽴たないのに愛される存在って最強ですよね。⼈間だとそうなろうとしてもプライドやら何やらが邪魔して、どうしたってそういう⾵にはなりきれないから。とはいえ、ネコの世界でもやっぱり先に⽬が⾏くのは「役に⽴つ」ということでもあるのか。

K:実際チビが来てからネズミもいなくなったし、ゴキブリも⾒なくなったから。

Y:すぐ近くの古い家が取り壊されてからネズミがやってきて、私も軽くノイローゼ気味になっていたの。だからチビは救世主的存在だったんだよ。

――すごい。そんなキレイにネコが役に⽴ってるエピソードははじめて聞いたかもしれない。

Y:でもヨルは何にも捕まえられないから。チビがいなくなっちゃったらどうしよう……。

K:まあチビは飼い猫の鑑だよね。でも外で遊んでくるから、じゃれたりはしない。逆にヨルはじゃれてばかりだけど、そういうネコ的な可愛らしさはある。

――話を聞いていて、チビとヨルのあいだにも役割分担があるということがだんだんわかってきました。

Y:じゃーん、ヨルを⼆階から連れてきたよ。

――(ここでヨルの鳴き声と共にS さんも登場)

S:こんにちは。というか、⼆匹とも居間にそろってるのはめずらしい。

――おお、ずいぶん変わった鳴き声ですね。

Y:たまにツイッターにスペースでヨルの鳴き声が⼊ると、すごく悲惨な感じというか、息も絶え絶えみたいに聞こえちゃうんだけど、いつもこうなんだよ。チビと違ってずっと鳴いてるし、わりかしうるさいネコだから。

――ちなみに、今これは何を訴えているんですか?

S:「気持ちいい」って⾔ってますね。

K:ネコの鳴き声と思えないでしょ。

――(しばし居間で思い思いにくつろぐ⼆匹に⾒⼊っては写真を撮る)

Y:ヨルは写真好きだから嬉しいのかも。でも今⽇はまだわりと普通のネコ感を出してるけど、あれこそが「⾃分勝⼿なネコ」の姿って感じ。⾃由だもんね、ヨルは。

S:かなり。



――あ〜、すごい美猫ですね。なんか、全てがどうでもよくなってきちゃうな……。あ、だめだ、あの、今回⼀応取材というか、企画の趣旨としては占い師向けのメディアということで。
占い師って普段相談者をエンパワーメントする⽴場にはいるんだけど、占い師も⼈間だし、周囲の植物や動物なんかにエンパワーメントをされていると思うんですけど、こういう⾵に⼒をもらっているなって、改めて⾔葉にすると何かありますか?

Y:急に取材っぽい話の振り⽅に戻ったね(笑)あー。えーとね、チビはかならず枕元で寝ているのね。あれはけっこうエモいよね。やっぱりチビのほうは寄り添ってくれる感じがあるから。

――それはふと起きたときに、あたたかな気持ちになる感じですか。

Y:いや、というより、出るんですね、って感じ。「布団から出るんですね」って確認してくるっていうか。だよね?

S:出ますね? 出ますね? だね(笑)

Y:ただ、エンパワーメント感って意味だとヨルのほうがあって。なんか「こーんなに⾃由でいいんだ」ってなるんだよね。とにかく、どこかに⼊っちゃいけないとかって意識がまったくない。ステレオの上にのったり、引き出しの奥に⼊って出られなくなったりとか。
ヨルが走り回ってるところを⾒てるとそう思うかな。

K:ステレオの上のところから、この⼩さいイスをスケボー代わりにしてタタっとジャンプしてすべったりね。すごいよ、ほんと。

Y:とにかくいつも楽しそうなネコだよね、ヨルは。チビはときどき悲しそうにしてるんだけど、ヨルはつねに楽しそうにしているよ。つらそうなヨルなんて⾒たことないよね。

S:⽔⽊しげるの漫画に出てきそうだよね、ヨルは。

Y:チビは動物病院でも⼤⼈しくしてるんだけど、ヨルなんか去勢のときも暴れまくって先⽣が診察室で「おさえろ!」って叫んでるのが聞こえたぐらい。⾒に⾏ったら、壁とか⾎だらけでさ。ちょっと狂ってるんだよね。

K:なんかホラーっぽいんだよ。⿊猫だし、動きも予測不能だし。急に変なところから出てきたりするから。

S:こっちがソファーで寝ていると、⾜元らへんから⼿がスッと出てきて引っ張ってきたり。あとさんざん遊び回ったねって置いて⽴ち去ろうとしても、もっと遊びたいって、思いきり連れ出してくるんですよ。

Y:そう、でもやっぱりヨルのほうがエンパワーメント感あるかな。チビのほうが思いやりはあるけど。

――そうかあ、なんか⼆匹のバランス絶妙ですね。悲哀と喜楽というとカテゴライズしすぎだけど……。そういえば、さっきヨルが来たとき、あまりにうるさく鳴き叫ぶヨルをSさんが⾃分の部屋に引き取ったって聞いたんですけど、その時のことは覚えていますか?

S:⼀⽣忘れられない思い出ですよ。まあ、うるさかったなぁというほうが⼤きいけど(笑)
浪⼈中の秋だったんですけど、その時は、寝るときに⾳楽聞いていて、⽿が壊れる⾳量ギリギリくらいまで上げていたんですけど、それを貫通してヨルの鳴き声が聞こえてきましたから。それも2 時間くらいでおさまるかなって思っていたら、朝の5時、6時までおさまんない。

Y:とにかくずっと鳴いていたし、迷惑なネコだったよね。

K:いまだに急に鳴くし、鳴きだすと⽌まらない。たぶん、退屈していたりすると鳴くんだよね。

Y:要求が強いんだよね。こっちの都合とか関係ないし。

――すごいな、忘れた頃にやってくるってやつじゃないですか…。

K:あとね、可愛いのがね…(ここでヨルが鳴きだしていったん中断)



ネコは占えるか、そしてそもそも占う必要があるか問題

――あの、⼤体の誕⽣⽇はわかるんですか? ⼆匹の。

Y:たぶんチビは牡牛座 で、ヨルは乙女座 なんですよ。『ねこの星占い』(※)って本があって、ヨルがあってるかは怪しいけど、チビはここに書いてあることそのまんま当たってるよね。⾯倒⾒のいいところとか。

――それは⼀般的な星占いでの牡⽜座とはちょっと違うイメージでおもしろいですね。

Y:ちょっと読むと、「牡牛座のネコは⾃分が家族の⾯倒を⾒なければならないと考えていて」とあって。チビを拾ったときにお店を始めたばっかりだったから、この言葉が嬉しかったのよ。

――乙女座のところには「良⼼の呵責がない」って書いてありますな。⾯⽩い! ⼈間向けの記述とぜんぜん違うじゃないですか。牡牛座は「主⼈思い」とか「ほかの猫と違って悠然としている」って書いていますね。これもさっきから聞いていた話の通りって感じ。

S:でもわりと⼩ずるいこともするんですけどね。

Y:ああ、⾷べものね。鶏⾁が⼤好きなのよ。で、台所のコンロに鍋あけたまま置いておくと⾷べられちゃうから、必ずふたをしめておくようにしているの。

――⾷いしん坊ぶりが度を越えていますねぇ。

S:⾒つかると「しまった」って顔して、急いでどっかに消えていくんだよね。

Y:⾷べものでヤバいのはチビのほうだね。スルメイカも⼤好きなんだけど、スルメはあんまりネコに⾷べさせるとよくないって書いてあるから、あんまり⾷べさせないようにしているんだけど、でも異常に好きでゴミ箱からスルメイカの⼊ってた袋まであさってきて、⾃分のエサの横にスルメイカの袋を置いて、匂いをかぎながら⾷べるみたいなことまでしてるのよ。

――ネコにも太陽星座占いって当てはまるんですね。知らなかった。とりあえず、その本買ってみます。

Y:猫の誕⽣⽇がわかる飼い主だったら、うれしい本だと思うよ。

――普段からチビやヨルのことで占ったりすることはあるんですか?

Y:それはないかな。こっちの都合で飼うか飼わないか決めるってのはあるかもしんないけど、カードで占わなきゃいけないほど⽤事はないじゃん。

――確かに。むしろこっちの都合や思惑が通⽤しない存在が⾝近にいることを許容できることの尊さというか豊かさの感覚みたいなものを、今⽇はお話を聞いていて再確認させられた気がします。⻑時間にわたってありがとうございました。

※『ねこの星占い(GIFT BOOK)』シモーネ・シュタイン著/⻄川賢⼀訳(めるくまーる、1996)

ゲストプロフィール

タナミユキ(タナミ・ユキ)

タナミユキ(タナミ・ユキ)

占い師・古書店主。古本ト占「JUNGLE BOOKS」を東京・雑司が谷で経営。美術大学研究室助手を経て、テレビ局の美術監修制作を経験したのち、1999年占い師に。鑑定人数12000人超え。共著に『来れば?ねこ占い屋』(絵・吉田戦車、占・タナミユキ/小学館)。『週刊スピリッツ』(小学館)で「来れば?ねこ占い屋 週間占いランキング」を3年間連載。
『おとなの週末』(講談社)、『HERS』(光文社)、『ELLE JAPON』(ハースト婦人画報社)等の雑誌で記事企画を監修・寄稿。漫画をストーリー協力・監修し、日本で出版後、海外出版も経験。占いアプリを日本とアジアにて展開し、イベント経験多数。

古本ト占「JUNGLE BOOKS」
https://junglebooks.wixsite.com/junglebookstop

「JUNGLE BOOKS」Twitter
https://twitter.com/junglebooks/with_replies

聞き手・著者プロフィール

SUGAR(しゅがー)

SUGAR(しゅがー)

慶応大哲学科卒。中学生でユング心理学、高校生で占星術と出会い、2009年より占星術家として本格的に活動を開始。最近はサビアンシンボルと季語、黄道十二宮と二十四節気七十二候との対応に関心がある。

HP http://astro-ragus.com/
Twitter https://twitter.com/sugar_su

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