
占いをなりわいとしている人はどんな本を読んでいるのか。あの人の考え方や視点はどうやって生まれたのか。本との出会いやエピソードとともに偏愛している本を紹介してもらいましょう。
占星術家/玲音(レオ)
渡英の決断と
占いとの出会いを
導いた本
小川糸『育てて、紡ぐ。暮らしの根っこ-日々の習慣と愛用品-』
テレビ東京系の番組『Youは何しに日本へ?』ではないですが、私がイギリスに住んでいた頃にもよく「あなたは何しにイギリスに来たの?」と聞かれました。
当時の私は、イギリスに住む理由を具体的に言葉にできず、テンプレのようなこの質問に対していつも曖昧に返答していたことを覚えています。
しかし、この「偏愛本」という企画を通じて、渡英を決めたときのことを思い出したので少しだけ語らせてください。
今回ご紹介する本は、小川糸さんの価値観を記したエッセイ『育てて、紡ぐ。暮らしの根っこ 日々の習慣と愛用品』(扶桑社)です。
小川糸さんといえば、映画化もされた『食堂かたつむり』(ポプラ社)でデビューした作家さんです。「食」や「人」などをテーマに現実に寄り添った作品が多く、読んでいると優しく温かい気持ちになれます。
たくさんの温かく、深みのある言葉で紡がれた彼女の作品の中で、私の人生を大きく変えたであろう言葉がこちらです。
仕事も家事も人間関係も 両手で持てる分だけ
自分の許容範囲を超える量は抱え込まないと決めています。
頂上まで登ってみないと、そこからどんな景色が見えるのかはわかりません。
自らの足で行って、到着した場所から、また、別な道を探して新たな景色を見に行く。
それを繰り返していかないと、その先の人生は見えてこない。
どんなことでも「まずは自分自身で体験する」ことがすべてだと思っています。
引用:小川糸 『育てて、紡ぐ。暮らしの根っこ 日々の習慣と愛用品』(扶桑社)
この本に出会ったのは渡英の約1年前。
その頃の私は地方でサラリーマンをしていました。その一方で、変化のない日々を恐れて目の前にある大量の情報を集めては、特別な何かに利用するわけでもなく忘れていく…そんな生活を送っていました。
そんなある日、この本を手に取りパラパラと眺めているときに、目に飛び込んできたのが先ほどご紹介した一文だったのです。
仕事も家事も人間関係も 両手で持てる分だけ
自分の許容範囲を超える量は抱え込まないと決めています。
引用:小川糸 『育てて、紡ぐ。暮らしの根っこ 日々の習慣と愛用品』(扶桑社)
改めて読むと、驚くほど特別なことが書かれているわけではないと思うのです。それでも当時の私には、足りなかったピースがカチッとはまった感覚があったのを今でも覚えています。
それからは、自然と少しずつ不要なものを捨てていく生活になりました。部屋の中にある不要なものだけでなく、頭の中の無駄な思考、そして人間関係などあらゆるものを選別し手放していったのです。
断捨離をしていると頭の中がクリアになっていく感覚もありました。
そんな中、運命の日が突然やってきました。
頭の中に猛烈な勢いで「何も知らないどこか遠い国に行ってみたい」という漠然とした思いが湧き上がってきたのです。
それは、語学を学びたいのでもなく、海外の文化を学びたいのでもなく。
そう、漠然と。
しかし、そんなぼんやりとした考えと同時に「なるほど、そういうことか」と謎の納得感も覚えたのでした。
おそらく、抱え込んでいたものを手放した結果、ミチミチに詰まっていた私の心に隙間が空いたのでしょう。そのおかげで、ずっと心の奥深くに仕舞い込んでいた自分の本当の欲求に気づけたのだと思います。
さらに、心の扉を開いたと同時に頭の中のネジがポロポロと外れてしまったのか、「英語が話せない」ということや「海外に一度も行ったことがない」といったネガティブなマインドも消えていたのです。
それから行き先をイギリスに決め、出国するまでの時間は一瞬でした──
占いを始めたのもイギリス生活中に一人の女性と出会ったことがきっかけなのですが、元を辿ればこの一冊の本が導いてくれたように思えます。
なぜなら、全ては小川さんが書かれた言葉の通り「当時の私」が持っていた「たくさんのもの」を手放したことによる結果だったのですから。
だからこそ、今でもその価値観は大切にしていますし、これからも常に心の許容範囲を超えないように生きていきたいと思っています。
そして、自分の欲求に素直に従い「自分自身で体験する」ということを心がけたいです。
さて、最初の問いに戻りますが、イギリスで占いに出会い、今回のような原稿の依頼をいただいた今、もしも当時と同じように「あなたは何しにイギリスへ来たの?」と聞かれたら私はどう答えると思いますか?
笑われるかもしれませんが、きっとこう答えるでしょう。
「占いに出会うためだ」と。

2023-01-08
レオ先生が28歳で渡英するキッカケとなった小川糸さん。
私も大好きな作家さんです。 雑誌のエッセイをよく読みます。 私も身の丈に合った暮らしを昔から好んでいます。
レオ先生と生きてきた時代は違えど、私も28歳の頃、働いていた職場に達成感を覚え、子どもの頃から惹かれていた世界へ飛び込みました。
長い人生の中には、導かれていたような転機があるものです。
そのチャンスを活かすかは、その人次第。
私は、直感に従ってます。直感を研ぎ澄ませておくには、多くの情報を処理して、頭に余白をつくっておくこと。
今、また人生において第2の転機が訪れていると実感しています。
レオ先生との出逢いに感謝して、星詠み学んでいきますね。
よろしくお願い致します。
玲音さんが渡英するまでの、ミチミチした詰め込まれた生活が、本(言葉)との出会いで一変していく様、断捨離をする事で本当に必要なものが入ってくる事が伝わりました。私自身、やはりどこかいっぱいに詰め込んでいると感じているので、空けていかないと…としみじみ思いました。素敵な記事をありがとうございました。