
――占いをなりわいにしている人が抱える悩みや不安。1人で考えても解決しないことも多いでしょう。これまで多くの占い師の相談にのってきた、占いカフェ&バー「燦伍(さんご)」のオーナー占い師である千田歌秋さんが、あなたのお悩みにお答えします!
第17回
インボイスって何?
占いの仕事に
どう関わってくるの?
「フリーの占い師としてオンライン鑑定を中心に仕事をしています。来年からインボイス制度が始まりますが、インボイスの適格事業者になるべきか迷っています。実際、インボイス制度は、占いの仕事にどのように関わってくるのでしょうか?」
インボイス制度とは、2023年の10月から施行される、消費税の控除の方式のことです。インボイスとは適格請求書のことで、しかるべき登録をした事業者(フリーランスを含む)でないと、これを発行することができません。この制度が始まると、売上先の事業者はこの適格請求書(インボイス)を保存しないと消費税の仕入税額控除ができなくなり、納税負担が増えることになります。
専門用語が多くてわかりにくいですよね。覚えていただきたいのは、会社であれフリーランスであれ、すべての事業者は、インボイスを発行できないと事業者との取引上、不利になるかもしれないということです。私は専門家ではないので、詳細は税理士さんなどに聞いていただくとして、ここではフリーランスの占い師(副業占い師や法人化した占い師も含む)にどんな影響が出るのかを、簡単にまとめてみようと思います。
課税か?免税か?
年間の売上規模でチェック
課税か?免税か?
年間の売上規模でチェック
ところで、あなたの年間の売上(正確には課税売上高)はいくらですか? もし1,000万円以下ならば、あなたは消費税を払わなくてもいい、いわゆる「免税事業者」です。
電話占いで毎月100万円以上振り込まれているとか、ベストセラーをコンスタントに出し続けているとか、大口の法人契約を多数抱えているとか、メディアで活躍しているような人気占い師である場合。あるいは、占い館の運営や占い師派遣などを手掛けている場合であれば、「課税事業者」として消費税を毎年払っていると思います。
しかし、ほとんどの占い師さんは、そこまで売上規模の大きくない免税事業者でしょう。
課税事業者が
注意すべきポイント
課税事業者が
注意すべきポイント
インボイス制度が占い師に与える影響ですが、あなたが課税事業者なのか、免税事業者なのか、さらには個人相手の仕事が中心なのか、比較的大きな会社を通した仕事が多いのか、状況によって大きく変わってきます。ひとつひとつ見ていきましょう。
まず、あなたが課税事業者の場合、そのまま「適格請求書発行事業者」へと移行することになり、インボイスを発行できるようになります。
申請書の提出、登録などの手間のほか、インボイス発行作業や煩雑な事務手続きなどが増えるので、その点は負担が大きくなると思いますが、仕事や売上への直接的影響は少ないでしょう。
ただし、ほかの占い師たち(免税事業者)へ原稿や講座の仕事を依頼していたり、イベントや館に派遣するなどマネージメントを引き受けていたりするケースでは注意が必要です。 その占い師たちがインボイスを発行してくれないので、消費税の控除ができずに納税負担が増加することになってしまいます。これを避けるために、占い師たちへの料率や報酬を下げることにすると、占い師たちの利益が減ってしまうでしょう。どちらかが今よりも苦しむことになるわけです。
免税事業者から
課税事業者に
移行するケース
免税事業者から
課税事業者に
移行するケース
次に、あなたが免税事業者の場合ですが、二つの選択肢があります。
一つ目の選択肢は、課税事業者になって「適格請求書発行事業者」に移行すること。 ただ、この選択をすると、苦難の道になります。消費税の負担が増えるだけでなく、申告手続きも面倒です。所得税や住民税で苦しい上に、場合によっては数十万円の消費税を負担するのは、かなり厳しいことでしょう。安易に課税事業者になる前に、しっかり計算しておく必要があります。
もちろん、1,000万円に近い売上の方や、それくらいの売上を目指すという方であれば、課税事業者になるのもいいでしょう。インボイスを発行できる事業者ということで、企業との取引がスムーズになったり、それだけ売り上げているのだから信用できそうだと、好印象を与えられるかもしれません。
免税事業者の
ままでいる場合の
注意点とは
免税事業者のままでいる
場合の注意点とは
もう一つの選択肢は、そのまま免税事業者でいることです。
あなたの仕事が、個人活動での鑑定やレッスンが中心で、顧客が一般消費者であったり請求書を出す必要のない免税事業者だったりするなら、この道を選びましょう。「領収書が欲しい」と言われる場合のほかには、インボイスを求められることはないでしょうから、デメリットはそこまで大きくないはずです。
一方で、あなたが比較的大きな企業(消費税課税事業者)と取引がある場合、こちらは苦難の道となるかもしれません。先ほど述べた通り、インボイスを発行できないと、あなたに仕事を依頼する会社側の納税負担が増えることになります。そのため、会社側はあなたへの報酬を減らすか、場合によっては取引を中止または終了することを検討する可能性もあります。
原稿やイベント、講師などの依頼を受けている方は、取引先の意向を知る必要があります。会社によっては、課税事業者であっても簡易課税(消費税の特殊な計算方法)を選択している場合があり、そうなると適格請求書は不要だと言われることも考えられます。取引先の会社次第ということになります。
そしてこれは原稿などの仕事のみならず、占い館や電話占い会社、プラットフォームに所属または登録している占い師も、全員影響を受けます。売上の歩合で占い師の取り分が決まっているかと思いますが、これも消費税込みでいただいているはずです。あなたを含めた多くの占い師が、インボイスを発行できない免税事業者のままであれば、館や会社側の税額負担が大きくなりますから、料率についての相談があるかもしれません。そろそろ会社側も、占い師の皆さんがどう動くのか、見極めにくる段階になってきたのではないでしょうか。
インボイス制度が予定通り施行されるのか、何らかの変更が加えられるのか、逆転で廃止になるのか、現時点(2022年11月)ではわかりませんが、来年の10月スタートに合わせたいのであれば、登録は3月末までにしておく必要があります。それまでに、自分の状況と取引先の考え方を把握して、適切に判断できるようになっておきましょう。
消費税の仕組み上、インボイス方式は原則的な制度と言えます。もともと消費税を導入したときに、小規模事業者からの批判を抑えるために見送られたものが、ここにきて導入されたという側面があり、ある意味正常な形になったわけです。
本質的には、これまで免税事業者の利益になっていた本来の利益とは言えない消費税部分を納めるようにしましょう、という話であり、占い師さんが本来取るべき利益とは別の枠組みで考えるべきものです。
とはいえ、大きな事業者相手にはどうしても立場が弱くなります。インボイス方式への移行をきっかけとした、取引の停止や強引な取引条件の変更については、下請法上問題になるケースもありますので、困ったことがあれば弁護士などに相談してみるのもいいでしょう。
2022-11-20