

『占いNEW NORMAL』をテーマに、占いをなりわいとする方々と異業種の専門家が語り合ったオンラインイベント「占いギャザリング2022」。全10のトークセッションの内容を詳しく紹介していきます。
「占いギャザリング」レポート
占いギャザリングレポート
世界がひとつでなければ
人の考えはどう変わる?
最新の宇宙論から考える
新しい占星術の世界
占いギャザリングレポート
世界がひとつでなければ
人の考えはどう変わる?
最新の宇宙論から考える
新しい占星術の世界

野村泰紀
(理論物理学者・宇宙論研究者)

ぐら
(古典占星術師)

占いと天体は切っても切り離せない関係にあります。特に占星術において天体は非常に重要です。今回は学問と占い、アプローチに違いがありながらもそれぞれが天体のプロフェッショナル である二者の対談が実現しました。
古典占星術師のぐらさん、そして物理学者で宇宙論研究者の野村泰紀さん。垣根を超えた2人の対談をご堪能ください。
別の宇宙の存在はすでに証明済み!? 最新宇宙論はここまで来ていた
ぐら野村さんはアメリカを活動拠点としているとお聞きしました。アメリカでの生活は現在でどのくらいの期間になるのでしょうか?
野村泰紀(以下、野村)アメリカでの生活ももう22年になりますね。現在はカリフォルニア大学バークレー校で教授をしています。専門は宇宙論や素粒子論です。
ぐら野村さんは、日本人の中で宇宙論の第一人者であると思います。本日はそんな野村さんに宇宙論と占いの関連についてもお聞きしたいと思っています。よろしくお願いします。
野村こちらこそよろしくお願いします。
ぐら占星術は天体の位置や動きを根底に置く占いですが、占星術で使用している天体の常識が最新の宇宙論においても変化がないのかという点は気になるところです。つまり、古い宇宙観で占いをしてしまっているのではないかと。
野村占星術と関連するのかはわかりませんが、これまで私たちが全宇宙だと思っていたものが全宇宙ではない可能性が生じています。マルチバースというのですが、それが私の研究している内容になります。
ぐら実は宇宙が無数にあるという考えですよね。詳しくお聞きしたいです。
野村今、私たちが観測している宇宙とは全く違う法則で成り立っている宇宙が別にあるという考えです。また全く違う宇宙がひとつだけあるのではなく、ちょっとだけ違う宇宙などたくさんの別の宇宙がある。そのような宇宙の可能性について“あるかもしれない”ではなく、“計算上あると言うほうが自然”というところにまで現在のサイエンスは辿り着いています。
ぐら私たちは少し前まで宇宙の中心が地球だと思っていましたし、この世界を球体でなく平だと信じて疑いませんでした。それと同様にマルチバースは私たちの常識を塗り替えるかもしれないですね。
野村そうですね。マルチバース理論も10年以上前は学会レベルでも見向きもされなかった理論です。それが、エビデンスが増えてきたことによって支持されるようになってきています。
ぐら将来的には、我々はマルチバースに移動することもできるようになるのでしょうか?
野村残念ながら現状ではその可能性は低いです。ただ、私たちが生きている地球・宇宙はまるで神様が調整したかのような奇跡的な環境です。これはなぜなのかという疑問に対して、無数にある宇宙のなかのひとつがたまたまそういった環境だったという回答が今後できるようになるのではないかと思います。
時間は人間が勝手に決めた概念
ぐら複数の宇宙、パラレルな世界の可能性が生じると、それに関連する疑問がいろいろと出てきます。そのひとつが「時間」です。占いは『未来』を対象とすることが非常に多く、たくさんの人が未来はどうなるかを知りたいと思って占いを求めます。でも、この過去・現在・未来という時間軸は人間が勝手に決めただけと言うこともできますよね。
野村時間軸だけでなく空間についても同じことが言えるのですが、これらは私たちが合理的に説明するために用いているひとつの次元でしかないということです。例えば時間という概念がない宇宙があることも十分に考えられます。
ぐら時間や空間でさえ疑いうると?
野村しかし、その問いを突き詰めると、行きつくのは「人間とは何か」「意識とは何か」という問いです。これらについて考えようとすると、物理学の領域を出ることになってしまいます。
ぐらそこは「物理学が扱う領域ではない」と、はっきりとしているわけですね。
野村結局、私たちを取り巻くあらゆる現象の観測は脳の意識を元にしています。ですが、物理学では「脳が意識することは本当に正しいのか」というところに踏み込むことはしません。そういった点を踏まえると、物理学が枠の外に置いた領域のひとつを占いが請け負っているとも言えるのではないでしょうか。
ぐら普通であれば観測し得ないものを、占いが拾っている可能性はあるかもしれません。そう考えると、確かに物理学が手を出さない角度からアプローチしていると言えますね。
野村観測の枠からは出てしまっているけれど、それでも何かしらの法則性のあるパターンを拾っているのが占いということでしたら面白いですよね。ただ、サイエンティストの立場としては観測できないことについてはわからないということになります。
人間は原子の集合体でしかない
ぐら野村さんとお話をしていて、物理学が扱う範囲がひとつの焦点としてあるのではないかと思っています。
野村物理学と他の学問の違いという点で哲学との違いを紹介します。哲学者は「イルカは存在するか?」「何かは存在するか?」「光は存在するのか?」といった問いを立てる学問です。これらに対する物理学の答えは「知ったことではない」となります。
ぐらそれはどういうことでしょうか?
野村イルカはいろいろな原子からできていて、それがお互いに相互作用しているだけです。存在は原子でしかない。そうすると原子の位置を全部コンピューターに入れてシミュレーションができればイルカなどという概念は必要ない。単に原子が動いているだけと言えます。
ぐら野村さんはイルカを例に出しましたが、これは他の生き物でも当てはまりますよね。僕ら人間でも同じことが言えるのではないでしょうか。
野村だから「人間などというものはない」と言いたければ言ってもいいのです。人間の場合でも、原子の全ての位置と速度が全部わかれば、あとはコンピューターにぶち込めばいいだけですから。
ぐらすごい話になってきました…!
野村原子が出入りを繰り返しつつ同じ形を保って、ひとりの人間でいうと約80年程度存在し続けるということだけが事実です。ただそれだけとも言えますが、各々の人間は「自分はいる」と思っているわけですよ。その「思っている」という意識とは何なのでしょうか。そして、先ほども言ったようにこの問いは物理が手を出していない領域です。
ぐらそう考えると私たちが普段意識だと思っているものについて何も知らないと言えるのかもしれませんね。
人間の意識とは何か
野村私が研究している学問分野は20世紀に爆発的に進みました。物理学の大きな発見の大半は20世紀での仕事と言っても過言ではないでしょう。では、なぜこのような発展を遂げられたかというと、意識や精神世界といった問いは全て物理学の外に置いたからです。
ぐらそして、そこに哲学やもしくは私たちの仕事である占いが入っていると?
野村そうですね。「良い悪い」の話は別として物理学は線引きをしました。物理学の道に進む場合、そういった問いを扱っていたら昇進もできませんからね。
ぐらその上で、僕たちは意識に方向性を与えているものが何かしらあると思って生活をしています。例えば人間が生きてこの体を維持していくためだけであれば、僕が占い、野村さんが宇宙物理学の研究をすることは効率がいいとは言えませんよね。でも、そこには何かしらの意図というか、熱意があるはずです。
野村確かにそう思います。私たちは、意識には何かしら方向性を与えるものがあると信じています。そこに含まれる熱意や熱量は、単に人間の脳が情報の集まりというだけでは生まれないものでしょう。
ぐら熱意や熱量という観点で言うと、野村さんはなぜ今回の対談を引き受けてくれたのでしょうか?
野村物理学者の中でも人間の好奇心は必ずしも全く同じではありません。この対談を引き受けた理由は僕がおもしろいと思ったからです。僕は物理学者であるがそれは僕の一部でしかないということです。
ぐら最後になりますが、野村さんが物理学者になったきっかけはあったのでしょうか? 最初の動機、熱量が生み出されたきっかけについて知りたいです。
野村高校のときの先生が非常におもしろい人だったのですね。進学校だったのですが、受験に全く関係のない量子力学の話ばかりしてしまうようなタイプで。今思うとそれが、僕がこの道に進むことになったきっかけです。人間同士の出会い、結局は大事なことはそういうところにあるのかもしれません。
2人の対談は人間とは何か、意識とは何かといった根源的な問いへと進んでいきました。その中でも熱意や熱量というキーワードから人間が人間である理由も垣間見ることができました。今後さらに宇宙の謎が判明し、さまざまな科学技術が生み出されていくなかで人間が人間である理由の探求はより重要なテーマとなっていくかもしれません。
2022-10-09