

『占いNEW NORMAL』をテーマに、占いをなりわいとする方々と異業種の専門家が語り合ったオンラインイベント「占いギャザリング2022」。全10のトークセッションの内容を詳しく紹介していきます。
「占いギャザリング」レポート
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プロならば知っておきたい
占い師のための精神医学入門
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精神医学入門

春日武彦
(精神科医)

千田歌秋
(燦伍オーナー占い師)

占い師と精神医療。これらは一見相容れない立場のように見られがちです。しかし、実際の鑑定現場に立つと、切っても切り離せない問題なのだと痛感させられることが多いのではないでしょうか。この対談では、精神科医の春日武彦さんと占い師の千田歌秋さんに、鑑定の現場でよくあるケースをもとに語っていただきました。
精神科医から見た「占い」とは?
占い師を頼って鑑定を受けたことがあるという春日さん。実際に占いを受けてみてどう感じたのか? 春日さんの本音に迫っていきます。
千田歌秋(以下、千田)最初に聞いてみたかったことなのですが、春日さんは占いや占い師にどんなイメージをお持ちですか?
春日武彦(以下、春日)正直に言うと、うさんくさいと感じることもあります。しかし、占いや占い師全てを否定することはできないと思っています。
また、私個人の見解ですが、占い師の方々は割と苦労人で、一般の方が想像できないほど人生経験の豊かな方が多いのではないでしょうか。それに比べたら、精神科医などは温室育ちで人生の機微も知らずに大人になった人が多いと思いますね。
千田春日さんは「占いに行ったことのある精神科医」として本を書かれていますが、なぜ、占いを訪れようと思ったのですか?
春日以前、私は精神的にどん詰まってしまった時期がありました。その時に、同業者の前で個人的な話をするのはどうしても気が引けたものですから、誰に頼ろうかと考えた結果、何名かの占い師さんにお世話になりました。
千田春日さんがお会いしたのは、どんな占い師さんだったのでしょうか?
春日まず1人は、霊感を使って占う方でした。霊感と聞くと、眉に唾を付けたくなるようなところもあったのですが、その方はとにかくきちんと私の話を聞いてくれたのです。
それで私も、「俺の人生がどうもうまくいかなくて、俺は不満なのだ」といったことをグジグジと話し続けました。しばらくすると妙にすっきりしてきて、話している途中で思わず泣いてしまったのです。人前で泣いたのはもう30年ぶりくらいで、自分でも驚いてしまいました。
こうやって体験してみて、本当に安心できる場で自分の心の内を語るということは、こんなに楽になるものなのだなと実感したのです。
精神科医・カウンセラー・占い師の違い
精神科医も占い師も、心に悩みを抱えた人の話を聞くという点では似ていますが、実際にはどんな違いがあるのでしょうか?
千田精神科医や心理カウンセラー、占い師、それぞれの職業について、似ている点や違っている点について教えていただけますか?
春日まず、三者に共通するのは、とにかく相手の悩みをきちっと聞くということと、守秘義務があるということですね。
その上で、精神科医は病気というものを前提に見立てを行って診断し、薬を出すことに重きを置きます。一方、カウンセラーは、医学的な知識を背景に持ちつつ相手の話を聞いて助言をしたり課題を出したりします。両者は、患者がよくなるまで何度も会ってフォローをするのが基本です。
占い師の鑑定は、1回きりというのが一般的ですよね。最後までフォローをしなくていいという意味では1人のお客様に対する責任は軽いかもしれません。しかし、1回きりだからこそ、伝える言葉の重みが違うのではないかと思うのです。
千田1回きりだからこそ、勝負をかけたくなってしまうのですよね。この鑑定で、「いかに相手を幸せにするか」や「いいアドバイスをしよう」というふうに、少し力が入ってしまうケースもあるとは思います。
春日また、占いの場合は「この恋はどうなりますか?」といった質問に占いのシステムに従って答えてくれますよね。これは、精神科医やカウンセラーにはできないことです。 ただ、私のように何かを質問するわけでもなく、とにかく話を聞いてもらいたいという人もいるでしょうが。
千田そうですね。実際、特に何を占ってほしいのでもないというお客様はよくいらっしゃいます。そういうときは、お客様の話を丁寧に聴きながら問題の本質を掘り下げていって「じゃあ、これを占いましょうか?」と、提案をすることが多いです。
鑑定経験を積めば積むほど、こういった占いに入る前のお客様とのコミュニケーションが、実はすごく重要だとわかってくるのですよね。
春日それは精神科医も同じで、例えば、患者さんが「不安です」と言ったから抗不安薬を出せばいいというわけではありません。その言葉の背景にある、その人の人生を深掘りしていくことが求められると言えますね。
精神疾患の方と占い師はどう向き合うか
占いに来るお客さんに多い精神疾患の種類について、その特徴や見分け方を春日さんに伺いました。鑑定時、お客さんの対応に困ってしまったときの参考になるはずです。
千田精神疾患にもいろいろな種類があると思うのですが、特に占い師が鑑定の現場で遭遇してしまいやすそうな患者さんのタイプを教えていただけますか?
春日まず多いのは、「うつ(鬱)状態」の方ではないでしょうか。ただ、うつ状態だからといって「うつ病」というわけではありません。本格的なうつ病の場合、おそらく占い師の前に来る元気もないと思いますから、鑑定の場に訪れる方は神経症レベルと言ってもいいでしょう。この場合は、とにかくお話を聞いてその方の人生を深堀りしていくのがいいと思います。
春日それともうひとつは、「統合失調症」ですね。統合失調症の方は、妄想を持っていますから、「悪い電波を飛ばしてくる一味が…」といった主張をしてきたりします。こういった話に真剣に応えてはいけません。
統合失調症の方は、妄想がある故に「腹が立つ」「つらい」「苦しい」という感情を抱えていますので、「それは、おつらいですね」と、感情のほうに寄り添っていくといいでしょう。決して妄想の内容には踏み込まない、というのが原則ですね。
千田「わかります」と理解を示すのではなく、その感情を「お察しします」と寄り添うことが大事なのですね。
春日占いの現場で最も遭遇しやすいのが「パーソナリティー障害」だと思います。昔でいう「人格障害」というものですね。このタイプは、相手にものすごく過大なものを求めるので、初対面でいきなり「私の人生を救え」と要求してくることもあります。
また、見捨てられることを恐れていて、占い師が辛口なことを言ったりしたら、「この占い師は私を見捨てた」と逆恨みしてくる場合もあるでしょう。さらに、相手の些細な言葉や行動を深読みして「見捨てられた」と思い込み、過激な反応をしたりすることもあります。
千田なるほど。コミュニケーションをとる際は、勘違いされないようにしっかり言葉でフォローをしないといけませんね。
鑑定現場にパーソナリティー障害と思われる方がいらっしゃったとき、見分け方のようなものはありますか?
春日ある種の「違和感」でしょうか。会話をしていて、直感レベルで「おや?」と思う相手はパーソナリティー障害の可能性が高いですね。具体的には、場違いな服装をしていたり、自己評価が異常に低かったりという特徴も。
また、彼らは「見捨てられる」ことにものすごく敏感なので、予防線として妙にサービスしてくるということもあります。例えば、過剰に褒めてきたり、「差し入れです」と言って高いお菓子を持ってきたりというように…。
千田ちょっとした「違和感」を無視しないということが大事なのですね。鑑定の現場でトラブルに見舞われた際は、このお話を思い出しながらお客様に接してみるといいかもしれません。
占い師がメンタルヘルスに、よりよく関わっていくために
千田占い師の目から見ても、明らかに精神疾患をお持ちだとわかるお客様がいらしたら、そのまま鑑定を続けるよりも精神科の受診をお勧めするのがいいでしょう。 ただ、これがなかなか難しくて…。病院やカウンセリングに抵抗を感じるお客様も多くいらっしゃるからです。そういったお客様にスムーズに伝える方法があれば教えていただけますか?
春日ダイレクトに「病院に行け」などと言ったら、見捨てたような印象を与えてしまうので…。
例えば、「あなたが、私の占いの結果を聞いて、それを十分に生かすためには、心のゆとりが必要だと思います。ただ、今のあなたは十分に心のゆとりを持っているようには見えないので、そこを何とかしたほうがいいかもしれませんね」という言い方をしてみてください。
千田「心のゆとりを持つ」とは、おっしゃるとおりですね。切羽詰まった状態で占い結果やアドバイスを伝えてもお客様の心には届かないものですから。メンタルヘルスと占い、両方を提案するような伝え方ならスムーズかもしれないですね。
春日そうですね。健やかな生き方を目指すためには、占いと精神医療というのは相反するようなものではなく、共存できるものだと私は思っています。
いきなり病院に行くのが怖いという人は、まずは気軽に行ける占いでお話をするだけでもいいと思います。占い師のもとを訪れる、その勇気や決断はものすごく大きなことですから、きっと、その方の人生に新しい展開をもたらす第一歩になるはずです。
近いようでなかなか交わることのない、占いと精神医療。春日さんと千田さんのお話しから、それぞれの共通点や相違点をよく理解することができました。心に悩みを抱える人に寄り添う存在として、これまで以上に両者がよりよく関わり合っていければと思います。
2022-09-18