

『占いNEW NORMAL』をテーマに、占いをなりわいとする方々と異業種の専門家が語り合ったオンラインイベント「占いギャザリング2022」。全10のトークセッションの内容を詳しく紹介していきます。
「占いギャザリング」レポート
占いギャザリングレポート
老舗書店が見つめてきた歴史といま
イギリス今昔占い事情
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老舗書店が見つめてきた
歴史といま
イギリス今昔占い事情

Geraldine Beskin
(THE ATLANTIS BOOKSHOP)

鏡リュウジ
(占星術研究家)

現代の魔女が生きる街・ロンドンでは、魔術を専門に扱うお店が中心となり、その文化やコミュニティを支えてきました。ロンドンにある世界で最も古いオカルトショップ、THE ATLANTIS BOOKSHOPのオーナーの一人であるGeraldine Beskinさん、占星術研究家の鏡リュウジさんが、「イギリス今昔占い事情」をテーマに語り合いました。
世界で最も古いオカルトショップ・THE ATLANTIS BOOKSHOP
鏡リュウジ(※以下、鏡) 魔法・魔術の本を専門に扱う「THE ATLANTIS BOOKSHOP」は、江口之隆(えぐちこれたか)先生など、ロンドンで魔術を勉強した方々の著書にも登場しています。
私自身は学生時代からこのお店にあこがれて、19歳の頃に初めてロンドンに行ったときにはもちろん一番に飛び込みました。その後も訪れる度に、抱えきれないほどの本を購入しています。大英博物館から歩いて5分のところにあって、アクセスも便利なのですよね。
Geraldine Beskin (※以下、Geraldine)THE ATLANTIS BOOKSHOPは、西洋神秘学を扱うお店のなかでも世界で一番古く、実践的なものを扱っている、とても珍しいお店です。1922年、いまからちょうど100年前にMichael Houghton が友人と2人で 開きました。
魔術の本を取り揃えていますが、ワンド(杖)や、薬草などの魔道具 も売っています。 また、実用的な魔法のやり方やレシピを聞きに来るお客様も多いです。
鏡新型コロナウイルス感染症が広がる前は、地下にある部屋で、毎週のようにイベントを催したり、講座やワークショップを開いたりしていました。本の刊行イベントなどの際はワインなどの飲み物も用意され、いろんな人たちが交流する場となっていたのです。コミュニティのハブのようなものですね。インターネットが普及していない時代には、店頭に置かれたイベントやその他占いを案内するチラシが、特に貴重な情報源となっていました。
Geraldineさんは、どのような経緯でこのお店のオーナーになったのでしょう?
Geraldine私が初めてこのお店を訪ねたのは学生だった頃です。Michaelさんがそのとき一緒にいた父に向かって「ゆっくり見ていってくださいね。いつかあなたがこのお店のオーナーになるのですから」と予言され、それは現実のこととなりました。
その後、私も母とともにお店に立ったりしましたが、一度別の方に売ってしまいました。それを娘のBaliとともに買い戻して、2人でオーナーをやっています 。
イギリス発祥の宗教“ウィッチクラフト”とは?
鏡西洋のものは何でも入ってくる日本でも、ほぼ唯一入ってこないのが、魔術、つまり「ウィッチクラフト」です。ウィッチクラフトは現在、フェミニズムやエコロジーと結びついて、それを復活させようとするムーブメントが起こっています。
Geraldineさんもウィッチクラフトを実践する魔女でいらっしゃいますが、現代のウィッチクラフトについて説明していただけませんか。
Geraldineウィッチクラフトというのは、ペイガニズム(異教。キリスト教、ユダヤ教、イスラム教ではない宗教のこと)のひとつです。キリスト教以前から存在し、スピリチュアリティと民族性が混ざりあい、成り立っています。
また、男神と女神の両方を大事にしていて、男性も女性も平等に大切にしています。自然のサイクルに関わり、おまじないも行いますが、服を脱いで裸になったり、ほうきに乗ったりといったことは、ほとんどの魔女はしません。
鏡イギリスには、何人のペイガン がいるのですか?
Geraldine最近の調査では6万人とされていますが、いまはそれよりも増えていると思います。最近の地産地消の運動の広がりや、環境問題などへの意識の高まりが、自然を崇拝するペイガニズムへの関心を後押ししているのではないでしょうか。
今、オカルトショップに若いお客さんが増えている意外な理由
鏡このお店に訪れるのは、どんなタイプのお客さんでしょう? プロが多いですか?
Geraldine魔術の初級者から上級者まで、ありとあらゆるお客様が来店します。有名人もいらっしゃいます。
鏡時代を通して、お客さんは変化しましたか?
Geraldineものすごく変化しました。1970〜80年代 は中年男性がメインでしたが、年を経ると、ヒッピーやより若い世代の人たちが来店するようになりました。地産地消や環境問題の影響も相まって女性が多く入ってきて、男女のバランスが取れてきました。 飛び込みのお客様も、以前だったら全然知識がない方が多かったのですが、いまは基本的な知識を持った方が増えましたね。
鏡男性のお客さんが多かったというのは驚きました。
Geraldine昨今のフェミニズムによって、女性の主体性が大事にされる ようになってきたのです。流行の影響もあります。これまでは「怪しい。近づいてはだめだ」と思われていたものでも、マーケットができて、多くの方に受け入れられるようになりました。
鏡何がきっかけだったのでしょうか?
Geraldine一例ですが、リンダ・グッドマンが書いた『SUN SIGNS』(太陽星座)という本がベストセラーになり、星占いを見る人の裾野が広がりました。それまで「星占いなんて」と言っていた人が関心を持つようになり、本がプレゼントとして購入されるようにもなりました。
また、「ハリー・ポッター」シリーズの影響も大きいです。魔術に親しみを持つ人が増えたことで、いままで以上にたくさんの魔術の本が出版されるようになり、デザインもよくなってきました。著者のJ・K・ローリングさんが、魔法をもう一度この世界にもたらしてくれました。
魔法の杖や占い本など…人気のアイテムは?
鏡お店でもっとも人気のあるアイテムは何ですか?
Geraldine断然、タロットカードです。カードを買い求めるお客様ばかりです。本は、『ASTROLOGY in the WORKPLACE』がよく売れています。職場や日常生活で役立つアドバイスが、12星座それぞれに向けて書いてあります。他にも、おまじないの本やフォークロアに関する本も売れました。昨年は、これまでにないほどハーブを扱った本がとても売れました。
鏡コロナ禍の影響でしょうか?
Geraldineもちろんそれもあると思いますが、別の理由もあります。イギリスでは現在、ジンというお酒が流行していて、ジンに入れるハーブにも注目が集まっているのです。イギリス人は、昔は家で料理しませんでしたが、流行や時代の変化、コロナ禍の影響などで自炊をする人が増えました。その結果、ハーブについて書かれた本を多くの人が買い求めるようになったのだと思います。
鏡最後に、Geraldineさんの夢を伺えますか。
Geraldineこれまでの100年の歴史をとても誇りに思います。コロナ禍のさなかはやめるという選択肢もありましたが、私たちにとってお店はとても大切な存在です。大切に思ってくれているお客さんもいます。 本も出版したり、コミュニティを作っていったりして、娘とともに次の100年も続けていきたいと考えています。
鏡今日はありがとうございました。伝説的な存在であるGeraldineさんをお迎えできて楽しかったです。
コロナ禍や不安定な情勢で社会の行き先が見えないなか、魔術や占いなどが多くの人の指針になっているのでしょう。これからも、THE ATLANTIS BOOKSHOPのような場所や魔術、占いなどが、人々のよりどころとして続いていくに違いありません。
2022-08-18