占いギャザリング2022 レポート 桃山商事・清田隆之/暮れの酉

『占いNEW NORMAL』をテーマに、占いをなりわいとする方々と異業種の専門家が語り合ったオンラインイベント「占いギャザリング2022」。全10のトークセッションの内容を詳しく紹介していきます。

「占いギャザリング」レポート

占いギャザリングレポート
男だから、女だから…占いの性差問題
「こうあるべき」から自由になろう

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男だから、女だから…
占いの性差問題
「こうあるべき」から
自由になろう

清田隆之

(文筆業/桃山商事代表)

暮れの酉

(占術家)

「男だから、女だからこうあるべき」という偏見や思い込みは今なお存在します。占いの鑑定現場でも、このような「ジェンダーバイアス」によって苦しんでいる人が多いのだそうです。
この対談では、 恋バナ収集ユニット・桃山商事の清田隆之さんと占い師の暮れの酉さんがジェンダーバイアスについて語り合いました。

実はあなたも!? 無意識に潜む「ジェンダーバイアス」

暮れの酉早速なのですが、ジェンダーバイアスという言葉についてあまり聞き慣れない方もいらっしゃると思います。具体的にはどういったものなのでしょうか?

清田隆之(以下、清田)僕もジェンダーの研究者ではないので自分なりの解釈ではありますが、男らしさとか女らしさとか、そういう性差に基づく偏見や差別のことですね。その多くはおそらく、個人の心の中や社会のシステムの中に無意識、無自覚のうちに根付いてしまっているものです。

暮れの酉いわゆる「男だから」「女なのに」というような性別にまつわる社会的な縛りを指すということですね。

清田そうですね。「男ってこういうことをするべきだよね」「これは女の人の仕事だよね」などと知らない間に役割を決めてしまっていることが、皆さんそれぞれにもきっとあるんじゃないかなと思います。

暮れの酉清田さんがジェンダーについて考えるきっかけは何だったのでしょうか?

清田2001年から桃山商事としての活動を始めたのですが、最初は大学のサークルのような感覚で友達の恋バナを聞く活動でした。話しに来てくれる人は、ほとんどが異性愛者の女性。悩みの対象は、彼氏、夫、会社の先輩などほとんどが男性で、借金していたとか、暴力的な話とかネガティブな話も多かったですね。そのうち「何だかそっくりな話がいっぱいあるな?」ということに気づき始めて…。

暮れの酉それぞれが全く違う男性のことを話しているはずなのに、ですか?

清田ええ。「彼が、彼女の家に入り浸って食っちゃ寝しかしていない」とかいう話を違う女性から聞くことが何度もありましたし、自分自身も異性愛者の男性の一人として似たようなことをしたかもしれない、と思い当たるケースもあって。

どうしてこんなに似たエピソードが出てくるのだろうと疑問が募ってきたときに、そういう問題の背景にはきっと、女性に同じような役割を求めている男性の何らかの感情が関わっているのではないか、といったことを段々と思うようになったのです。

暮れの酉男だからこれぐらいしても許されるだろうとか、男だからちょっと乱暴でもいいだろうみたいな、そういう考え方ですね。

清田たぶん、男性サイドも意識しているわけではないと思うんですよ。考えて行動しているというより反射的にやってしまう、みたいな。そのように、心の奥にある潜在的な何かが、今日のテーマであるジェンダーバイアスのような根深い問題に結びついているのだろうと感じています。

鑑定の現場で見かけるジェンダーバイアスの弊害

暮れの酉実は僕も、過去に占い師として相談を聞く中でついやってしまったことがありました。例えば、離婚の相談で来られた女性に「夫と離婚していいですか?」という質問をされて、「生活は大丈夫なのですか?」と、その方が働いていない前提で話したりだとか…

清田「女性=夫の収入に頼っている」という偏見を持って話し始めてしまったと?

暮れの酉そうなんです。10年以上も前の話ですけど、あの頃は未熟でした。

清田僕は占いについて詳しくはないですが、何かの相談に乗るという点では共通する部分も多いと思います。話を聞く際にこちら側にバイアスがかかっていると、相談者さんの話をつい誘導したり、価値判断を下したりしてしまうことが大いにあり得るので、そういう「よからぬもの」とは、なるべく距離を取るように心がけていますね。

自らの解釈を伝えたい、あるいは何か役に立つことを言って感謝されたいという気持ちが、どうしても入り混じってきてしまうものです。僕も活動初期の頃は「絶対こうでしょう」とか「彼氏やばいっすね」とか、平気で言っちゃっていましたから。

暮れの酉占い師も似たようなことを伝えてしまいがちです。それでも相談者さんに寄り添えていたらいいのですが、結局のところ相談者さんはそんなことを求めているわけでもないという。

清田曇った表情や悲しい顔をされたりして「変なこと言っちゃったな」といったことが重なったので、自分たちは何も言わず、ただその人が話している言葉の内容をありのままに理解することぐらいしかできない、という結論に至りました。とはいえ、自分の中のバイアスを取り除けるかはわからないですが。

偏見や思い込みが、苦しみの種になっている

暮れの酉相談者さん本人や周囲にバイアスがかかっていると、悩みが深くなる傾向もあります。過去に受けた相談で、彼の収入が低いために親から「そんな男は駄目だ」と反対されたり、「酒の席で面白くない男と結婚するのはやめてくれ」と言われたりしたという相談者さんもいました。これもまたジェンダーバイアスが根底にあるお悩みと言えますね。

清田多くの人は、ジェンダーを意識して生きているのではなく、無意識の中で他者や自分自身に男女の役割を求めているにすぎないということも多々あります。そんな相手に「それ偏見ですよ」と伝えたところで「何を言っているのかわからない」と、全く響かないという…。

男性の中にはジェンダーという言葉の意味さえ知らない人もいます。だから、たとえジェンダーバイアスに縛られているなと感じるケースであっても、それを伝えるための言葉を双方で共有できていないので、どう伝えればいいのか迷ってしまったりするのです。

暮れの酉女性の場合でも、例えば「結婚せねば」「子供を産まなければ」「家事ができなければ」と、ある種の旧来的な女らしさみたいなものに縛られている方がいらっしゃいますが、男性と同様に伝えるハードルはあるように感じます。

清田それが苦しみの種になっているのであれば、なぜそう捉えてしまうのか、苦しみの原因がどこから来ているのかを一緒に考えたいと僕は思っています。ただ一方で、もともとその人が持っている価値観とか、その価値観で長い間生きてきた歴史を簡単には変えられないじゃないですか。

暮れの酉確かに。最近では女性も働いて当たり前とか、これまでの主婦像を否定するような価値観も広がりつつあって、そこに悩む人も実は多かったりするんですよ。「働いたことはないけど、私も今の風潮だと働かなきゃダメなのかな」みたいな。今ってあちこちで価値観のアップデートが進んでいる過渡期なので、そういう悩みが増えるのも必然なのかもしれません。

バイアスに縛られた相談者のために占い師ができることとは?

清田やっぱり相談者さんの話を聞くことを大事にしたいと考えています。ジェンダーバイアスに縛られている部分があれば、話を聞くことで、こんがらがった問題の根本を解きほぐしていけるのではないかと思うのです。

ただ一方で、相談者さんの中には「全部ダメ出ししてください」「悪いところを教えてください」と、行動指南を強く願う方もいらっしゃるのが難しいところです。僕たちが、2時間ほど話を聞いて悩みの構造が見えてきたとしても、「こうしたほうがいい」といった解決法を安易に提示することはできませんから。

「何をすればいいですか?」「どこを直せばいいですか?」と、即効性のあるノウハウを求められると困ってしまいます。占いの現場ではそういったとき、どういう対応をされるのですか?

暮れの酉占いは答えのないものではありますが、生年月日や手相によって「私は何者なのか」という仮の答えを作ることができると僕は思います。

例えば、しんどい恋愛関係にある女性に「あなたは世話好きだから、彼を見捨てられないんだね。でもその結果、彼の成長を邪魔しているんじゃない?」などと、お説教っぽく言ったりします。それで相談者が「私が尽くすことは、彼のためになっていないんだ」と納得してくれると、凝り固まった考えがほどけて、次のステップに繋がったりするのです。

清田なるほど。とはいえ、明らかに相手の男性や社会的な風潮が悪いのであって、相談者自身に問題はないと感じる場合もありますよね。そういう状況でも、相談者さんの中には「私が悪くて未熟だから、この苦境を脱するには自分が頑張らなきゃ」っていう自責的な考え方をする人も多いのです。

おそらく、僕たちのところに来る前に、友達とかの先輩、飲み屋で会った人なんかに同じ話をしているのでしょう。そういった場では「自分に原因がある」というストーリーに行きつくことが多くて、それに慣れてしまっている状態というか…。その辺りにもすごくジェンダー的なものを感じますよね

暮れの酉確かに、占いの現場でも自分を責めてしまう相談者さんは多いように思います。

でも、自分の感情を言語に落とし込んだり、あるいは、占い師が「あなたはこういうところが悲しかったんだよね」と言語化を手伝ったりすることで、スっと浄化されていく人が多い気がするのです。

清田わかります。言語化は本当に大事ですよね。何かが解決したわけでもないのに、問題の中核にある何かがクリアに言語化されただけでちょっとスッキリしちゃうみたいな。

暮れの酉そういう意味で占いは、相談者さんが自分にかかったバイアスに気づくきっかけになれているのかな、と。

清田そうですね。我々の場合はお金をもらっているわけでもないですし、基本的に一度しかお会いしないので、行動指南ほどの大それたことはできないなって。でも、やっぱりそういうものを求められているなって感じる瞬間に、こっちが応えられないもどかしさとかもあるのは事実なので、暮れの酉さんとのお話が今、いろいろと参考になっています。

暮れの酉占い師は逆に、つい口を挟んでジャッジしてしまわないか、常に葛藤しているので、清田さんのように行動指南はやらない、自分のジャッジで相手の人生を決めちゃいけない、と線を引くことにはちょっと憧れますね。

我々占い師も意識をして相談者の話を聞くことが大事なのだと学ばせていただきました。

(編集:ケンイチ)

あなたの悩みや苦しみの原因は、心の内に潜む偏見や思い込みかもしれません。ふたりのお話を通して、自分の中にあるバイアスに気づいていけたらいいですね。

2022-08-11

出演者紹介

清田隆之(きよたたかゆき)

清田隆之(きよたたかゆき)

文筆業。恋バナ収集ユニット「桃山商事」代表。これまで数々の恋バナを聞き集め、「恋愛とジェンダー」をテーマにコラムやラジオなどで発信している。

桃山商事 HP:http://momoyama-shoji.com/

出演者紹介

暮れの酉(くれのとり)

暮れの酉(くれのとり)

鍛えられた匠の技術と包み込むような会話術で、大阪ミナミの老舗占い館で18年間No.1の座に君臨。朝からできる長蛇の行列は名物となっている。

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