

『占いNEW NORMAL』をテーマに、占いをなりわいとする方々と異業種の専門家が語り合ったオンラインイベント「占いギャザリング2022」。全10のトークセッションの内容を詳しく紹介していきます。
「占いギャザリング」レポート
占いギャザリングレポート
他者と世界をどう見つめるのか?
占い×まなざしのデザイン
占いギャザリングレポート
他者と世界を
どう見つめるのか?
占い×まなざしのデザイン

ハナムラチカヒロ
(ランドスケープアーティスト)

SUGAR
(占星術研究家)

「占い×まなざしのデザイン」をテーマに、ランドスケープアーティストのハナムラチカヒロさんと占星術研究家のSUGARさんが語り合いました。
パンデミックや気候変動など、今世の中はさまざまに揺らいでいます。混迷する現代、占い師に求められる役割とは? 2人の対話から明らかになっていきます。
「まなざしのデザイン」と占いの共通点
まず、「まなざしのデザイン」とはどういったものなのでしょうか? ランドスケープアーティストとしてのハナムラさんの活動に触れつつ、ひも解いていきます。
ハナムラチカヒロ(以下、ハナムラ)私はランドスケープアーティストとして、庭や都市の緑地など風景を設計する仕事に長年携わってきましたが、活動を続けるうちに、ただ単に建物や庭を作るということに疑問を持つようになったのです。
風景って、見る側のコンディションによって印象がだいぶ変わりますよね。たとえば、同じ海を見ても、楽しく海水浴をしているときの海の見え方と、海に行く前にサメに襲われる映画を見た後の海の見え方って違うじゃないですか。風景を見るとき、見る人の心の状態が大事なんじゃないかと。そこに焦点を当てるのが「まなざしのデザイン」なんです。
風景の半分は人間の想像力に根ざした「まなざし」から生まれます。人間の外側のデザインばかりを洗練させたところで、その効果はどこまでいっても半分しかないのです。そこで、人のモノの見方を変えるにはどうしたらいいのかを、もう20年くらい研究してきました。
SUGAR実はこれ、占い師がやっていることと重なる部分がありますね。占い師のもとには悩みを抱えた人がやってくるわけです。けれど、「その悩みはこう考えることもできますよ」と、その相談者さんに違う視点を与えてあげる、それこそが占い師の大きな役割ではないでしょうか。
違う角度から言語化することで、現実は何も変わっていないけれど、相談者さんのモノの見方を変えて悩みを軽減する、そんな風にお手伝いをするのが占い師なのです。
ハナムラまったくその通りだと思います。ともすれば、風景をデザインするのはデザイナーだと思われがちなのですが、そうではありません。デザインする主体は見ている人自身なのです。いろいろな角度からものを見るためのお手伝いをすること、それこそが、我々ランドスケープアーティストや、占い師の役割なのではないでしょうか。
「まなざし」が固定化されがちな現代への危機感
続いて話題は、世の中のモノの見方へと移っていきます。ハナムラさんやSUGARさんが危機感を覚えているという「まなざしの固定化」とは? 2人のお話を聞いてみましょう。
SUGAR普段占いの鑑定をしていて、占い師も相談者も思考が固定化してしまいがちだなと思うことがあったんです。
ハナムラさんの著書『まなざしの革命 ; 世界の見方は変えられる』(河出書房新社)を読んだのですが、「僕らがいかに、世の中やモノの見方が曇っているのかを、自覚しなくてはいけない」というお話が印象的で、私自身も危機感を持つようになりました。
今回のパンデミックや、3.11、東京オリンピックの予算問題など、いろいろな問題に対峙していく過程で、誰もが自分の視点を持ち得ていたのか、まなざしを誘導されていたのではないかと考え込んでしまいました。その点、ハナムラさんはどう考えていたのでしょうか?
ハナムラ『まなざしの革命 ; 世界の見方は変えられる』は、外から我々のまなざしがデザインされていますよ、ということに対して警鐘を鳴らすために書きました。
現代社会には、モノの見方を誘導しようという強い力が作用していると思います。政治的なこと、フェイクニュースなども含めて、いろいろなものが我々のモノの見方を誘導しようとしています。それに強い危機感を覚えたからこの本を書いたとも言えます。
昨今のパンデミックでも顕著でしたが、情報があふれる世の中においては、まなざしが揺れ動かされるがゆえに、私たちは極端なものに飛びついてしまったり、何か強いものを信じようとしたりすることでまなざしが固定されつつあります。これは、人間が人間らしくなくなっていくようで、とても危険だと感じています。
「まなざし」の固定化をどう解除するか
世の中を席巻する「まなざしの固定化」を解除するにはどうすればいいのか、2人の見解とは?
SUGAR今の世の中の流れからいくと、自分で考えることを放棄し、強力なリーダーやインフルエンサーなどに従おうとする人が増えています。
何か新しい問題が出てくると、敵か味方か、善か悪かといった答えを出そうすることを「人工知能化」と私はとらえています。人工知能のように、正解か不正解かという回答を出そうとする、これをどうずらすかが「まなざしのデザイン」の肝だと考えるようになりました。
人工知能化を防ぐ、つまり、まなざしの固定化をどう解除していくのかという点について、ハナムラさんは、どう思われますか?
ハナムラ人口知能化という点で考えると、人工知能はアルゴリズムですから、問題設定のしかたで答えが決まってしまいます。フレーム問題ともいわれますが、問題設定のしかたで物事のとらえ方は大きく変わってしまうのに、人工知能は問題設定自体を変えることができません。
しかし、私や占い師は、問題にしていること自体に疑問を抱けます。「あなたが問題だと思っていることは、本当は問題ではないんじゃないですか?」と視点をずらすことができるのです。それが、まなざしの固定化を解除できる方法ではないかと思います。
「まなざし」が固定化する中での占い師の役割
まなざしの固定化を解除するために、占い師はどんな役割を担っているのでしょうか? 2人のお話からひも解いていきます。
ハナムラ問題設定自体を変えるためには、これまでとは違った視座から物事をとらえるのが大事なのです。みんながこうだと思い込んでいたモノの見方を変えること、これは今までアートが担ってきた分野であり、人工知能ではなく人間だからこそできるのでしょう。
占い師は、私たちの日常にある因果関係の外側を見ていますよね。たとえば、星の運行とか、そういう視座から問題を見るのが有効な場合もあります。つまり、占い師は鑑定を通して「まなざし」をデザインできるということです。
SUGARたとえば、恋愛の悩みで占い師に相談しに来た人がいたとします。だけど、話を聞いているうちに、本当の問題はそこじゃないって思うことがよくあるんです。
そういうときに私は、問題と答えの関係を「こじらせる」ことが大事だと思います。相談者の方と話しているうちに、答えを見失っていき、そもそも問いの立て方が違っていたのではないか? そんな方向へ持っていけたらと考えているのです。
ハナムラフランス語で「jamais vu(ジャメビュ)」とも言いますが、ある瞬間に、自分が今まで見ていたものが、全く違うものに見えてくる現象があるそうです。占い師には、そういう異化を起こす役割があるのかもしれません。
自分がこれは正しいと信じ込んできたことは、本当に正しいのか? それに気づいた瞬間に問題は解決しているということもあると思うんです。下手な解決法を示すよりも、自分が何にこだわっていて、何にフォーカスしているのかを教えてあげる、そういう意味では、占い師の役割ってとても重要なのでしょうね。
「まなざしのデザイン」という考え方をもとに、まなざしの固定化、これからの占い師の役割など興味深い事柄について語られた40分。今を生きる私たちにとって問題の本質をさまざまな角度から見つめ直すことの大切さに気付かされるセッションでした。
2022-07-17