
占いをなりわいとしている人はどんな本を読んでいるのか。あの人の考え方や視点はどうやって生まれたのか。本との出会いやエピソードとともに偏愛している本を紹介してもらいましょう。
占星術師/エルミス
「我が子の名前」を
生み出した本
中野京子さんの『怖い絵』(朝日出版社)が発刊された2007年、私のおなかの中には小さな命が宿っていました。
「絵」も「ちょっと怖い」も大好きだった私は、この本を手に取らずにはいられませんでした。まさか、娘の名前に大きくかかわってくることになるとはつゆ知らずに。
『怖い絵』で取り上げられているのは、視覚によるダイレクトな「怖さ」ではありません。
絵に描かれたモデルや画家本人の思いや人生、文化的背景や時代の変遷を解き明かすことで味わう知的興奮。それと同時に、何層にも塗り重ねられていた「恐怖」がひたひたと見えてくる「怖さ」です。
人の心胆をまことに寒からしめるのは、怖がらせを意図した絵より、画面には描かれてもいないのに、あるいはちゃんと画面にあって見ているというのに、見る側が少しも気づいていない絵の方ではないか。
引用:中野京子『怖い絵』(朝日出版社)
本書で紹介されている、ウィリアム・ホガースによる油絵「グラハムチルドレン」。ふっくらとした頬にあどけない瞳、こんな愛くるしい子どもたちの肖像画のどこに「恐怖」が……?
名画に隠されている、人間の奥底に横たわる暗い欲望、狂気、歪んだ愛情、残忍な支配者や自由のない社会階層、一瞬で幸福を流し去る潮の変わり目……。
さまざまな「恐怖」のなかでも一番怖かったのが、「生と死が隣り合わせ」であることでした。
本書で紹介されている名画が描かれた16世紀から19世紀の西洋では、死産や産褥死が珍しいことではなく、無事に生まれてきても成人まで育つ子はほんのわずか。
成人しても疫病、戦争、飢餓、処刑、拷問、虐殺の中を生き抜いていかなければいけない。
文字通り、明日をも知れぬ命であり、「死は日常」でした。
今までだって「死」を感じることはあったのに、なぜかこの本では痛いほど間近に感じました。著者の臨場感あふれる語り口に、自分が絵に描かれたその場にいたかのように感じながら物語を読み進めていたからかもしれません。
それとも、自分以外の「生」を身体に宿して、身を守ろうとする意識が強くなっていたからでしょうか。とにかく、自分たちの存在のもろさに気づいて、うすら寒くなりました。
しかし、「死」を意識することで、今ある「生」のありがたさも強く実感することになったのです。
さらに、今よりずっと過酷な時代を生き抜き、そして次の世代へ連綿と「生」を受け渡してきた先人たちにまで思いを馳せると、感嘆、感謝、敬意……いろいろな気持ちが湧いてきました。
死の恐怖を感じるときほど生きる実感を得られることはない。
引用:中野京子『怖い絵』(朝日出版社)
数か月後、「生」を引き継いで無事生まれてきてくれた娘には、ご先祖さまが「生」をつないでくれた証となるような名前を贈ることとなりました。
「怖い」のに魅惑的な物語の数々。その後も『怖い絵』シリーズほかをいろいろと愛読しています。怖ければ怖いほど「生」が輝いて見えるからかもしれません。
さて、このお話にはちょっと続きがあります。
ずっとずっと後に、占星術を学び始めた私がサビアンシンボル※を調べていたときのこと。
娘の生命を表す太陽の度数に書いてあったタイトルは「先祖の委員会」。
不思議な偶然に驚いたのは言うまでもありません。
※黄道360度に1度ずつ当てはめられた詩のような象徴やメッセージ
2022-04-21
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