
対面鑑定、電話やチャット占い、テレビの今日の運勢、スマホ越しに見る占いコンテンツ、占い記事や占術の本……。さまざまな形で届けられる占いの裏側では、多くの人が働いています。わたしたちの目に触れる占いはどのようなプロセスを経てつくられるのか、その過程での工夫や苦労はどういったものなのか。占いの裏方仕事をお伝えします。

「東京タロット美術館」の裏側
昨年11月、東京・浅草橋にオープンした『東京タロット美術館』。希少価値の高いタロットの企画展示のほか、常時500種類ほどのタロットの展示販売も行われており、さまざまな形でタロットを楽しめます。
運営元は1974年に日本で初めてタロットカードを輸入販売した「ニチユー株式会社」。今回は同社の代表取締役・佐藤元泰さんに、東京タロット美術館設立の経緯やタロットへの思いを伺いました。
コロナ禍で開館した経緯
コロナ禍で開館した経緯

入口に掲げられている挨拶文
開館のきっかけを教えてください。
佐藤元泰さん(以下、佐藤)日本で初めてタロットカードを輸入販売した会社として、長年タロットをとりあつかってきました。その中で、タロットは単に「占いの道具」ではなく、歴史的・美術的価値の高いものであり、自分自身の内面と対話できるツールであるとつねづね感じていました。その思いをこのたび形にしたのが、東京タロット美術館です。
コロナ禍での開館にはどのような思いがあったのでしょうか?
佐藤コロナ禍では、人生の不条理に直面され、必然的に自分と向き合わざるをえない状況の方も多くいらっしゃると思います。
この状況下でこそ、タロットを「自己対話のためのツールのひとつ」としてご紹介することが、どなたかのお役に立てるのではないか、という思いがありました。
昨年5月の緊急事態宣言下で開催したイベント『五感で感じるタロットの世界』でも、実際にたくさんのお客さまのお話をうかがったことで、その気持ちがさらに強くなりました。
「東京タロット美術館」
という名前に込めた思い
「東京タロット美術館」
という名前に込めた思い

額縁を使った絵画風のタロット展示
「東京タロット美術館」と名づけた理由は?
佐藤現代の日本において、「タロット」というと「占いのツール」としての認識が強いと思いますが、タロットカードのアート性をもっと広く知っていただきたいという思いがありました。
「美術館」として広くご紹介することで、タロットがサブカルチャーから一般的なカルチャーにアップデートされるのではないかと考えたのです。
オープンから2ヶ月ほど経ちますが、来館者はどのくらいですか?
佐藤約2000人の方にご来館いただきました。コンセプトである「自己との対話」の場として、落ち着いた空間を保つために、予約制かつ定員制とさせていただいています。
お客さまからは「タロットの奥深さを知って興味がわいた」「美術館内の居心地がいい」「絶版のタロットを購入できた」など、さまざまなご感想をいただいています。
SNSでも、来館した方が感想を発信していますよね。
佐藤そうですね。SNSで当館を知ったという方もよく来館されます。その中に「ひきこもりだったが、タロットに出会って救われた。ここで働いて自分と同じような人を助けるお手伝いをしたい」と言ってくださった方もいらっしゃいました。日々あたたかいご意見をいただき、とてもうれしく拝見しています。
「自己との対話」ができる空間を
大切にしたい
「自己との対話」が
できる空間を大切にしたい

占いや学問に関する書籍を読みながらゆったり過ごすこともできる
東京タロット美術館の楽しみ方を教えてください。
佐藤当館のコンセプトである「自己との対話」をする空間としてのご利用をおすすめしています。入館時にタロットの1枚引きができるほか、サンプルカードを使ってセルフリーディングもしていただけます。ライブラリースペースでは占い関連の本だけでなく、哲学や美術等の書籍もご用意し、ゆっくりお読みいただけるようになっています。
タロット展示へのこだわりは?
佐藤東京タロット美術館では、タロットカードのアート性をより強く感じていただける空間を目指しました。タロットにくわしいかどうかは関係なく、タロットを目の前にして、何かを感じていただきたいと考えています。その感覚こそが「正解」であり、そのことが自己対話へのきっかけになればうれしく思います。
今後、計画している企画やイベントなどは?
佐藤図像学や神話などに造詣の深い方を招いて、講演会やワークショップができればと考えています。タロットを「占い」としてだけではなく、多方面からアプローチしていくことで、ゆくゆくは日本におけるタロットの認知を量と質、双方で高めていきたいです。
タロットと一定の距離を保っていたから
美術館が設立できた
タロットと一定の距離を
保っていたから
美術館が設立できた

広々としたデスクで読書やセルフリーディングも
東京タロット美術館が注目を集めていることにしかり、近年タロットがカルチャーとして根づいてきたと感じます。
佐藤ここ2~3年で成熟してきたのではないでしょうか。私はタロットを少し離れたところから見ていた側です。だからこそタロットをカルチャーとしてとらえる「東京タロット美術館」の構想にいたったのだと思います。父と兄が他界して会社を引き継ぎ、たまたまタロットとの縁が続いていまにいたりますが、一貫して私にとってタロットはアートであり、「自己と対話」する道具のひとつです。
なぜタロットを少し離れたところから見るようになったのですか?
佐藤ニチユーは私の父親が立ち上げた会社です。そのため、幼少期からタロットカードが身近にあり、占いにも親しんできました。
一方で、父親が終戦後にゼロから会社を立ち上げて「運命を自分で開拓していく」姿も見てきたので、「人生は占いで決めるのではなく、自分で決めていく」という考えを持っています。そういった理由から適度な距離を大切にしています。

バリエーション豊かなタロットがズラリと並ぶ
自分の感じたことが
「答え」
自分の感じたことが「答え」

アートやカルチャーとしてもタロットを楽しめる
今後、タロットがどんな存在になってほしいですか?
佐藤目に見えない世界の大切さを伝えるツールであってほしいと考えています。
現代科学が発展して「目に見えるものしか信じない」という考えがある一方、占いやスピリチュアルに傾倒し現実に向き合うことができないケースもあるかと思います。どちらかに傾倒するのではなく、現実世界の中で精神性を高める努力をすることが大切ではないでしょうか。
これからタロットを始めたい人にメッセージを。
佐藤初心者の方には「タロットは自分自身が感じたことが答え」とお伝えしています。一般的なカードの意味を覚えるより、タロットに対してご自身が感じたことを受け止める。まずは「自分がこう感じているから、これでいい」と確信するのが大事で、それが重なって自分の軸ができていくのではないでしょうか。
生きていく上で、ものごとの本質を読み解くことは非常に重要だと感じています。タロットカードも本質を知るためのツールのひとつとしてお使いいただき、ご自身の物語をつむいでいかれることを願っています。
東京タロット美術館は「自己との対話」を大切にしてほしいという佐藤さんの願い通り、さまざまなタロットとの対話を通じて自分と向き合うことができる空間です。
特に館内中央にある、大きな額縁を使って絵画のように展示されたタロットは迫力満点! バリエーション豊かなタロットたちをながめて、手がけたアーティストならではのデザイン性や世界観を楽しめます。加えてサイズ感や材質の違いなど、あらゆる角度から自分だけの解釈をすることができると感じました。
タロットが好きな方、アートやカルチャーに興味がある方、自分を見つめ直す機会が欲しい方はぜひ一度訪れてみては。
2022-2-13