
対面鑑定、電話やチャット占い、テレビの今日の運勢、スマホ越しに見る占いコンテンツ、占い記事や占術の本……。さまざまな形で届けられる占いの裏側では、多くの人が働いています。わたしたちの目に触れる占いはどのようなプロセスを経てつくられるのか、その過程での工夫や苦労はどういったものなのか。占いの裏方仕事をお伝えします。

占い雑誌「MyCalendar」の裏側
2019年春に創刊した占い専門雑誌「MyCalendar」(マイカレンダー)。その前身となる雑誌は、1979年に創刊した伝説の占い月刊誌「MyBirthday」(マイバースデイ)です。2006年に休刊するまでの27年間、多くの悩める人々や占い愛好者のバイブルとして親しまれました。
今回は「MyCalendar」編集長、説話社の山田奈緒子さんに同社の歴史や占い雑誌を制作する思いについておうかがいしました。

「MyCalendar」編集長・説話社の山田奈緒子さん
「MyBirthday」で
培ったものを
絶やしたくない

「MyCalendar」とその前身である「MyBirthday」
「MyBirthday」休刊後の「MyCalendar」創刊について教えてください。
山田「MyBirthday」は女の子向けの占い雑誌として昭和54年に創刊し、一時は40万部に届くほどの人気でした。その後、2006年に休刊となったのですが、弊社は占いと共に歩んできた会社ということもあり、再び占い雑誌を出したいという思いから「MyCalendar」の創刊に至りました。
雑誌を創刊することは大きな挑戦ですよね。
山田「MyBirthday」は出版が実業之日本社さんで、弊社では中身の制作を請け負っていました。なので実際に自社で創刊となると、わからないことだらけで。最初は手探りでしたね。「MyBirthday」で培ってきたカルチャーの場をとにかく絶やさないようにしようという強い思いだけで走っていました。
創刊号を発売するタイミングとして2019年を選んだきっかけはありますか?
山田2019年は占星術でいう幸運の星・木星が12年に1度、社長の星座(射手座)に巡ってきた年だったんです。射手座の支配星も幸運の星である木星なので、今しかないと思いました。
ちなみに創刊をWEBで発表した日は「MyBirthday」休刊号の発売日から偶然にもぴったり12年後。星に動かされている会社だなと思いましたね(笑)。
悩める全ての方が読者層

ティーンを中心に人気を集めていた「MyBirthday」。
90年代らしいイラストやデザインが今となっては新鮮にも感じられる
「MyBirthday」はどのような雑誌でしたか?
山田単純に占い結果を載せるだけではなく、どんな見せ方にしたら子どもたちが興味をもってくれるか、編集者たちがひたすら考えていました。運勢や心理テスト以外にも、ファッションや芸能に占いを絡めるなど、いろいろ工夫していましたね。おまじないを絡めたスイーツレシピなど、衣食住に占いをリンクさせる企画も多かったです。
「MyCalendar」は「MyBirthday」発売当時の読者層がターゲットなのでしょうか?
山田そうですね。ただ創刊以降若い方からの反応も多く、「MyBirthday」を知らない世代の方にもより興味を持っていただけたらと考えています。
若い読者さんからは「『MyBirthday』を語るOGやOBが羨ましかったけど、自分たちにもそういう場所ができたのがうれしい」と言っていただいています。
「MyBirthday」は“悩める普通の女の子”が読者層でしたが、「MyCalendar」は“悩めるすべての方”に向けた雑誌ですね。
雑誌だけではなく
「場所」を作るイメージ

「MyCalendar」のリアルな制作現場
雑誌制作の裏側について教えてください。
山田「MyBirthday」時代は、編集部は誌面を完成させれば終わり。あとは出版社の方が販売してくださるという流れでしたが、自分たちで雑誌を立ち上げてみて誌面完成後の作業がとても多いと知りました。
時代の流れとしても「MyBirthday」のときと違って書店に置くだけでは売れません。SNSで発売までのカウントダウン投稿をしたり、ハッシュタグで大喜利をやってみたり、中身のめくり動画を作ったり、さらにnoteでも記事をあげたり…いろいろ試行錯誤しています。
雑誌だけではなくSNSでの発信にもチャレンジされているんですね。
山田雑誌を作っているというよりも、SNSも含めて「MyCalendar」という場所を作っているイメージでしょうか。占いに関するカルチャーを育てるための畑を耕している、という感覚に近いかもしれません。
女性誌の巻末占いと
専門書の「真ん中」
最近では占い師を目指す方や自分で占いを始める方が増えています。その辺りのアプローチはいかがでしょうか?
山田女性誌の巻末に載っている占いでもなく、占いの専門書でもない。そのちょうど真ん中にあたるメディアや情報が意外と少ないと感じていたので、「MyCalendar」がその間をつなぐ役割を果たせるように意識しています。
例えば、2017年に発売されて“初心者向けのタロット占い本”としてシリーズ累計10万部のヒットを記録した、LUAさんの「78枚のカードで占う、いちばんていねいなタロット」(日本文芸社)という本がありますよね。
同書の出版にあたって、私も編集のサポートをさせていただいたのですが、内容としては「自分で占いをやってみたいけど、専門的な知識が少ない」という、まさに真ん中あたりにいる人がつまずきやすいポイントを解消しやすいものになっていると思います。
今年5月に「MyCalendarの本」シリーズ第3弾として発売された賢龍雅人さんの「マイ・ホロスコープBOOK 本当の自分に出会える本」(説話社)もSNSで話題になりましたが、同書はどのようにして生まれたのでしょうか?
山田同書の編集は「MyCalendar」編集部の30代男性が担当したんですが、彼は占いについて詳しくなくて、ある意味では占いの「外側」の人。
彼のように占いの知識があまりない方でも理解でき、なおかつ「おうち時間で簡単にできる」ように工夫し、これまで占いに関心がなかった方でも楽しめる内容を目指しました。
ロジカルな個性を持つ賢龍先生と占いに詳しくない編集者という組み合わせで、科学反応が起きた良い例だと思っています。
SNS発信に込められた
熱量がポイント
「MyCalendar」に載りたいという若手の占い師さんも多いと思います。どうしたら編集部の目にとまるのでしょうか?
山田まずSNSやブログで積極的に発信されているというのが第一条件ですよね。そうでなければ、その人の存在を知ることすら難しい。またその人らしさが感じられる占いへの熱量を表現できているかどうかも重要だと思います。
例えば、個人的には星見当番さんは衝撃でした。表現ひとつ取っても、本当に占いが好きなんだなというのがわかるからこそ、その熱量に呼応して周りに人が集まっている。
ぐらさんもそうですね。「イラスト」という表現手段でぐらさん独自の世界観を表している。突き詰めて占いに向き合っている方の投稿は、やはり自然と目に留まります。
自己満足で投稿するのではなく、しっかりと見る人の目に留まる表現に置き換えていくことが大切なのですね。
山田楽しい投稿や興味深い投稿を見つけたら誰かにシェアしたくなりますし、思わず拡散したくなりますよね。発信する側として「どんなふうに受け止められるかな?」と情報の受け手のことを考えるサービス精神、みたいなものは占い業界に限らず、必要かもしれません。

「MyCalendar」次号は2022年の年運特集
12月22日に次号が発売されますが、どんな特集を組んでいますか?
山田これまではタロットやホロスコープといった占術寄りの特集だったので、次号は「2022年について知りたい50のこと」という人間寄りの年運特集です。
東西の占術問わず、50人の先生方に登場していただいたのですが、発売のタイミングが他の女性誌に比べて後になるのでより掘り下げた内容にできれば、ということでこの形になりました。
50人の占い師さんがそれぞれひとつの質問に回答しているということですね。人選はどのようにされたのでしょうか?
山田今回は「MyCalendar」でおなじみの先生をはじめ、TwitterやInstagramで活躍されている初登場の方などにもお声がけしました。人選の基準としては、面白いことをされている方や、未だかつてこの世界で言葉になっていないようなことを発信されている方などですね。結果、占い師さんが集まった年末のお祭りのような特集になりました。
最後に読者の方にメッセージをお願いします。
山田「MyCalendar」の読者さんは本当に懐が深くて温かい方が多く、励まされています。
公式SNSにはさまざまなコメントが寄せられますが、どれも内容をしっかり読んでくれていることがわかるので嬉しいです。
「悩める人のための雑誌を作りたい」というところからスタートしているので、今後も「MyCalendar」がいろんな悩みを抱えている人々の支えになったり、悩みがあっても「今日も生きていこう」と思ってもらえたりする存在であればいいなと思います。
「日々の暮らしに寄り添う占い雑誌でありたい」と話してくださった山田編集長。悩める人たちのことをひたむきに考える編集長の姿勢こそ、「MyCalendar」が占い雑誌としてバイブルであり続ける秘訣ではないかと感じたインタビューでした。
2021-12-23