

11月17日(水)
この本は、西洋占星術における自分の運命を決める星の図「ホロスコープ」を、ぼくの大好きな映画に置き換えて楽しく読めるようになろう、というコンセプトで書かせていただいた。
なので、この数か月は物事の流れを映画的に考える癖がついてしまった。
ぼくの執筆の工程が1本の映画だとするなら、「校了」というエンディング直前には物語の盛り上がりがほしい。クライマックスのパターンはいくつもあるが、最も盛り上がるもののひとつに「信頼してきた仲間とのぶつかり合い」がある。ぼくの執筆という物語も、まるで自分で脚本・演出を手がけているかのように、そんなクライマックスを迎えてしまった。
あとは完成に向けて突き進むのみ、という11月の初め。校了という最終チェックを終えて、印刷所にデータを引き渡す日が11月17日。もう本当に1分1秒無駄にできない。そんな緊張感がぼくと編集者のSさんにはみなぎっていた。補足が必要な部分や、修正箇所など「後でやろう」という夏休みの宿題的感覚で放置していたところに足を引っ張られ、お互いに昼も夜もない生活になってきた。
こうなるとぼくも「編集者より書き手が先に寝るわけにはいかない」みたいな変なプライドが発生して、夜中にSさんに送ったLINEの既読がつかなかったら寝よう=ついたら起きていなければならない、という既読がつくつかないで一喜一憂する10代の間でバズる曲の歌詞のような心境になっていた。ぼくの場合はもちろん「頼む、つかないでくれ!」なのだが。
しかし、このドタバタ劇の裏で、ぼくは自分がこれまで書いてきた原稿をさらに修正する作業を人知れず行っていた。
それを書いた時点と今ではさらに成長しているはず。だから、最新版の自分が書いたものを出したい、という欲求からだ。校了ギリギリで、これまでの原稿をひっくりかえすような大きな修正が、冷静な今ならあり得ないことだと理解できる。
ただ、そのときは、もしかしたら最初で最後になるかもしれない自分の本に妥協したくないという思いが勝ってしまった。そして、この思いを校了前日にぶつけてしまった。
これまで良好に仕事をしてきた編集者のSさんと初めての衝突が起こった。
Sさんとしてはもちろんこれ以上の修正は時間的にも不可能だし、キリがないと言った。それはぼくもわかる。でもここまできたらベストなものを残したい。
マリッジブルーならぬ「校了ブルー」というものが出版業界ではあるらしい。頑張って書いた自分の作品がいざ世に出るとなったとき「本当にこれでいいのか」と思って、納得がいかなくなってしまう状態のことで、このときのぼくはまさにそれだと、Sさんは言った。
仮に時間があったとしても、修正案よりも、修正前のほうがいい。Sさんだけでなく、書籍部の編集長や副編集長の目から見ても、現状のままがベストだという意見だった。
40代男性という占いのメイン層ではない副編集長は、この本で自分を占ってみて、内容に関してのダメ出しどころか、「自分の状態が言語化されて、スッと入ってきた」という感想を残してくれた。これは大きな礎になるのではないか。編集者のSさんはそんな話もしてくれた。
そもそもぼくはかなり自己中心的で、何かをやるときに必ず人とぶつかってきた。コンビも何度も解散してピン芸人の現在に至る。昔、劇団の脚本を担当していたときも、演出家のやり方に納得いかずに決裂した。この我が強すぎる性格を、昔はかっこよくさえ思っていた。お笑い界のみならず、成功者にはこの手の「自分が本当にやりたいことを貫きました」という伝説がつきものだからだ。
でも、その何倍も、他人の言うことに耳を貸さずに失敗した例はある。そして、芸人を始めて10数年。今まで人の意見に耳を貸さずに、何の結果も出せずにきてしまった。
ということは、やり方を変えなければいけない。
自分の本を世に出す際に、プロ中のプロである、出版社の方たちの意見を受け入れる。これまで我を通してうまくいかなかった自分が変わるきっかけになった。そのエピソードとしては、あまりにも贅沢なのではないか。
ぼくはSさん並びに、出版社の意向に沿うことにした。これは妥協ではなく変化。「本を良いものにする」という点を最優先事項にするために出した答えだ。
本を出版して、多くの人に読んでもらうことのためには、いかに自分を客観視できるかが重要で、それが難しい場合は、客観的に見てくれた人の意見を受け入れることが肝心だ。
この本は、手に取ってくれた読者の方が、占いを通じて自分の性格を知るきっかけになることをコンセプトとしているのだが、図らずもこの本を書くという行為を通して、ぼく自身が自分の性格と向き合い、理解し、ほんの少し成長できた気がする。
11月17日未明、校了完了。
長い長い執筆もようやく終わった。このときのぼくのホロスコープは、アセンダントに太陽が重なっていた。
これは自分が生まれ変わり、新たな面が構築されることを表す。この本によって自分の新たな面を見つけた人間第一号になれたのかな。と思って、冷静になった頭で校了終了後のゲラに目を通したら、めちゃくちゃ自分の好きなことをたくさん書いていた。この執筆日記を読んでから本を手に取ってくれた方に「こいつ、これだけ好きなことを書かせてもらっていて、校了前にあんなにごねていたのか」って思われたらどうしよう…
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2021-12-09