古典占星術の魅力

古典占星術の魅力 : ぐら

「古典」や「伝統」という言葉には難しそうなイメージがあります。実は私自身も、モダン占星術から入った時の第一印象は「宿命論的で暗いし重そう…」でした。本稿はモダン占星術との比較を交えながら、古典占星術の魅力についてつづっています。参考になれば幸いです。

古典占星術の特徴は?

さて、まず表面的な違いの話をしますと、古典占星術の特徴はモダン占星術と比較して占断過程が明確な点です。古典占星術では、天体やハウスに与えられた意味づけが明瞭であり、判定法(ルールやチェックポイント)が数多く明示されています。良くも悪くもそれが魅力ですから、明快な占断結果をお客さまに提供したいという方にとって、古典占星術は助けになるかもしれません。ホラリー占星術はその一例です。しかし、現実的な不便さは日本語で読める書籍、情報源が著しく限られているという点です。

では、双方の根本的な違いはどこにあるのでしょうか。例えば、詩歌と論文はともに何かを伝える点で同じです。でも情緒や感動に基づいているのか、思考と理論か、その前提で表現方法は大きく異なります。古典とモダンの関係はそうした違いと似ています。

モダン占星術は古典占星術の簡略版なのか?

モダン占星術が古典占星術の簡略版との見方もありますが、事情は少し異なります。確かに古典の決めごとは極度に簡略化されました。その一方、この100年で新たな手法や解釈が生まれ、むしろ簡略化とは反対方向へと進んだからです。

では古典占星術の決めごとは、なぜモダンで簡略化されたのでしょう。ヒントは過去(17世紀以降)に起きた「視点の移動」にあると考えています。神的な力が支配する運命論的世界観から、人間中心の世界観への移行が起きました。

「運命か自由意志か」という議論はとても古い時代からありますが、どちらを上位に置くかという問いは、古典占星術とモダン占星術の前提の違いを示す分水領です。

天が示す運命を上位に置く古典占星術

モダン占星術は自己の成長や、心のあり方をより深く探究します。運命を無視はしませんが、人生の背景に流れる環境音のように扱います。まず大切なのは「どうありたいのか」そして、どのような流れに身を置いているのか、主観と自由意志が視点の中心です。その主観に対して占星術で補助線を引いていくのが、モダン占星術が果たしている役割と考えています。

天が示す運命を上位に置く古典占星術

天界の働きが星々に現れ、その様相が地上に写される。これは古典占星術の前提です。そのため、古代の占星術師は天界と物質世界がどのような関係にあるかを見定めようとしました。

ここで大切なことは彼らの多くが「天が示す運命を、便宜上、人の自由意志よりも上位に置いた」という点です。ですから主たる目的は「いかに天の動きを読み解くか」にあり、言い換えれば「運命」という天のプログラムの解読を試み続けたのです。占星術は歴史を通じて変容を繰り返していますが「天界を物質世界の上位に置く」作法は、17世紀まで、多くの占星術師が共有する下地でした。*1

従って古典占星術は「何がいつ起きるか」といった判定とその結果に注目します。多くの決めごとは判定へと至るチェックポイントです。それゆえ、イメージによる想起や自由解釈、またエンターテインメントとの親和性はさほど高くありません。一方、判定に拘らないモダン占星術に、そうした複雑なルールはむしろ邪魔で不要になりました。

天体配置を規則に従って読み解く過程は、どちらかといえば参考書を片手に外国語を読み解く作業に近く、「この場合はこう読みなさい」という指定が至るところにあります。ですからモダンと比較すると読み解きのアプローチに制約があります。惑星の速度、太陽との位置関係、光の強さ、夜か昼かなどの決めごとが天体観察を下地にしている点も特徴です。

推しポイント

古典占星術の魅力

個人的な意見ですが、古典占星術は漠然とした質問には使い勝手があまりよくありません。質問が明瞭であればあるほど鑑定はしやすく、そのぶん当たり外れも明瞭です。

また入り口の敷居は少し高いですが、その作法と仕組みを理解すると、比較的明瞭な構造であることが分かります。

ぐら

ひとくちに古典占星術といっても、皆が同じ方法を採っているわけではありません。それぞれに独自の考え方、重きを置く作法があり、モダンの考えを採り入れる人、独自のルールを用いる人など様々です。

ヘレニズム〜アラビア期とルネッサンス期で用いる手法や基準に異なるところもありますし、ヘレニズム以前のバビロニアやエジプトに解を求めることもあります。*2 二千年の時を遡り占星術の変遷を探る。これもまた古典占星術の醍醐味のひとつかもしれません。

1:自説です。求めるものが現代とは異なっていたという視点から前提の違いを類推し、現在の結論としています。 2: ヘレニズム期(古代ギリシャ時代)、アラビア期(5〜14世紀)、ルネッサンス期(14〜16世紀)、バビロニア(メソポタミア文明)、エジプト(エジプト文明)

著者プロフィール

ぐら

ぐら

古典占星術と天体観測で書いたり、撮ったり、描いたりしている星好き占星術師。趣味は天文史、星文化。
星と友だちをめぐるショートストーリー「レグルスと爪」をAmazonにて発売中(春河イカル名義)。

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