
占いをなりわいとしている人はどんな本を読んでいるのか。あの人の考え方や視点はどうやって生まれたのか。本との出会いやエピソードともに偏愛している本を紹介してもらいましょう。
占術家/LUA
シニカルな感性に
気づかされた本
フランソワーズ・サガン著、朝吹登水子訳
『悲しみよ、こんにちは』
小学3~4年生のときに参列した葬式。酔った大人たちが、ああだこうだと大声で話す姿を見た私の脳裏に漠然と浮かんだのは、「どうせ、この人たちも死んでしまうのにな」という考えだった。今思うと、それがシニカルの土壌だったのかもしれない。
本屋に立ち寄ると、真っ先に目指していた海外古典文学の書棚。中学生の頃のマイブームだった。本を開くと、時代も環境も異なる見知らぬ世界が広がっていく。手軽に読破できるものもあれば、意味不明で、繰り返し読んでも難解すぎて放り出すものもあり、自分は頭が悪いのかもしれないと真剣に考えたこともある。
そんなある時に手にしたのが、フランソワーズ・サガンの処女作『悲しみよ、こんにちは』だ。
17才の主人公セシルと、経済力と魅力にあふれる女たらしのやもめの父。2人は南仏の別荘で、父の愛人エルザとともに、放蕩に明け暮れる幸せなバカンスを楽しんでいた。そこに、亡き母の友人であり、セシルの教育係的な存在の堅物の独身女性アンヌが現れ、父とアンヌの結婚話が急浮上……そこから物語が展開していく。
勝手に自分の人生を褒めればいいわ。自分の責任を果たしたという気持ちを持っているなら……
引用:『悲しみよ、こんにちは』/フランソワーズ・サガン著、朝吹登水子訳(新潮文庫)
これを読んだ当時の私は15~16才。セシルとは年齢も近く、やたらと人間を観察するクセのある私だった。非の打ちどころのないふうを装い、何も成していない欲求不満の大人たちが、若者に上から目線でものを言う素振りが鼻につく年の頃だ。
若い若いってそんなふうに片づけないでよ。私、できるだけ若さを少なく利用しているんですもの。
引用:『悲しみよ、こんにちは』/フランソワーズ・サガン著、朝吹登水子訳(新潮文庫)
フランソワーズ・サガンが描写する人物の人となりや世界観が、セシルの言葉として、私の中に染み入るように感じられて心地がよかった。一読したあとに、もう一度読み返し、気づいたら何度も読んでいた。
彼女たちは、一方、人生で何もしていないこと、他方人生を十分に生きたい欲望の結果、しばしば意地わるで感じが悪かった。
引用:『悲しみよ、こんにちは』/フランソワーズ・サガン著、朝吹登水子訳(新潮文庫)
思春期の残酷さは、無知ゆえの純粋さを持ちながらも、無理矢理に受け入れさせられる矛盾や、大人からの押しつけでしかない「大人の事情」という個人の利己的な都合が拍車をかけているだろう。毎日繰り返される両親の夫婦喧嘩や、その度に持ち出される自分という存在を呪わしく感じていた頃だ。学校で先生に叱られ、長々と説教されそうになったところで、「先生は結局、学校にしか通ったことがないのですよね」と言い、その場を打ち切りにしたこともある。自らの言葉に熱狂して酔いしれる様子は、喜怒哀楽の感情表現の中に見て取れることが多く、それはもう、はじめの意図からかけ離れ、聞くに堪えない話になりがちなのだ。
虫のいい大人として生きたくないと考えてきたが、結局、今大人として生存している。
成人したあとも、年に一度読むことにしていた『悲しみよ、こんにちは』だが、それを続けて20代前半を過ぎ、いつからか毎年恒例の一読が不定期になった。本棚を整理した際に、何度か手放したこともあるが、なぜか必ず再購入し、今も本棚に入っている。これを読むことで、当時の穢れなき自分を確認し、大人としての穢れから逃れたいのかもしれない。
自らがどういう立場にあろうと、一貫性のあるポリシーを持ち続けられる自分でありたいのだ。
2021-12-20
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