お客様の力を借りながら未来へ

占い芸人、本を出す 第四回 本の制作は原稿執筆だけじゃない
占い芸人・ますかた一真が本を出す! 何もかもはじめてだらけのなかで感じた、本を出すよろこび、不安、苦労など、ますかたさん自身がつづる出版日記をお届けします。

10月11日(月)

月×5ハウス

こう見えてぼくは俳句という高尚な趣味を持っている。俳句には秋の季語として「灯火親しむ」という言葉がある。これは秋の夜にいつもより少し遅くまで起きて団欒や読書を楽しむことを表す美しい言葉である。しかし、ぼくの場合の灯火はノートパソコンのモニターの光だ。それも親しむなんてもんじゃなく、メンチの切り合いぐらい睨み合いの日々が続いている。

この執筆日記の第一稿の予定では9月中に執筆は終わらせているはずだった。そのときのぼくはこう綴っている。

10ハウスは「達成」を表す。火星が10ハウスにいる9月中に、ぼくは執筆を終えるという「達成」を果たせているだろうか。この占いは当てたい。

スカしてんじゃねーよ!と言いたい。思いっきり締め切りを過ぎてるわ、占いもはずしてるわで、各方面からの信頼を急落させかねない。なんとかいいものをお届けするべく、秋の夜長を執筆にいそしんでいる。

さすがに書く内容も定まってきて、西洋占星術の基礎や惑星と星座の掛け合わせ、この場所にこんな星がある人はこういう傾向がある、というメインの部分を書く段階に入ってきている。おひつじ座の月はこういう性格とか、10ハウスに太陽がある人はこんな職業が向いている、とか。

しかし、この部分を執筆しているときに気が付いた。圧倒的に経験則が足りない、と。

惑星の星座やハウスによる性格の傾向は様々な本に載っているし、自分なりに方向性はつかめている。しかし、当たり前だがその本に書いてある傾向はあくまでも、その本の筆者が体験し、理論立てた傾向。言ってしまえば他人の考え。それを自分の本に書いてしまうのはまるで、モノマネ芸人さんがマネしている芸能人のマネをする「サークルの中では面白いと言われているヤツ」みたいなものだ。それにだけは絶対になりたくない。

ぼくが主に占わせてもらっているのは芸人さんだ。ライブの中でも楽屋でも様々な方を占ってそのデータをまとめている。さらには知り合いに占ってほしいと言われた時も、一応その時のことをノートにまとめている。そういう人たちには連絡ができるから、「この部分って当たってると思う?」とかの聞き取りを進めることが可能だ。けれど、それでもやはり絶対数が足りない。

占いイメージ実際のノートたち。

他にぼくの主な占い相手と言えば、やはりお客様だ。現在オンラインにて鑑定を行っているが、ここでもこれまでたくさんの方を占っており、その方々のホロスコープのデータをノートに書いてきた。最近はありがたいことにお客様が増えてきてなかなかやれていないが、初期のころは希望者の方にはその鑑定結果をメールで送らせて頂いていた。

この方々に直接聞いてみるのはどうだろう?というピューリツァーばりのジャーナリズム精神が心に芽生えてきた。

ダメもとで、これまで占い結果を送らせて頂いた方に、特に思い当たったことなどの詳細を教えていただけないか連絡をしてみた。もちろんプライバシーは完全に配慮することをお約束して。

なんと、思っていた以上の反響がきた。

誰からも返信が無いことを覚悟していたのだが、期待以上に皆様に協力して頂けた。しかも、ありがたいことにかなり詳細にお答えいただくことができた。この星が特に当たっていたとか、鑑定時はピンとこなかったけど後になって気づいたとか。

中でも最も嬉しかったのは、「その後」を聞けたことだ。

鑑定してから3か月後に本当に占い通りになったとか、あの時悩んでいたことは解決して今はこんな風に進んでいるとか。占いのデータを取りたかっただけなのに、こんな風に過去に占わせてもらった方々と交流ができるとは思ってもみなかった。

ホロスコープ

この時期、ぼくのホロスコープの11ハウスには水星と火星が入っている。冒頭で書いた通り、ぼくは個人としての「達成」を表す10ハウスに火星がいる間に執筆を成し遂げることができなかった。その次の11ハウスは「つながり」や「未来」を意味する。個人としてやれることは10ハウスで終わっていて、そこから先はひとりの力では進めないという考え方に基づいて定められた11ハウスの「つながり」と「未来」。そこに情熱を表す火星やコミュニケーションを表す水星がトランジットで入ってきている。

お客様はあくまでお客様。そこに過剰なつながりを求めてはいけないと思うが、少なくとも今の自分にとって占いの本を書くことはひとりではできないし、占いについて語ることは占わせてもらった経験についてを語ることだ。

『ドラゴンボール』の孫悟空の必殺技の元気玉のように、ちょっとずつみんなの力を分けてもらうことで未来に進める。

さらにこの時期は水星が逆行していた。通常水星の逆行は「通信の障害」や「連絡のすれ違い」「交通などの遅延」が起こりやすい少し注意が必要な時期だ。しかし、「思わぬ形で過去と対面する」ということも起こりやすいとされる。今回、過去に占わせてもらった方々と占いを通じてやり取りできたことは、水星逆行の力も少し加わったのかもしれない。

ホロスコープ

この本はぼくひとりの力ではなく、今までかかわった皆様の力があってこそのものだということに気づけた。本来この本で出る収益も、こうした今まで占った方と分けるべきなのだが、その方法が分からず途方に暮れ、泣く泣く独り占めさせてもらうことに決めた。完成まで、あと少し。

2021-11-4

著者プロフィール

ますかた一真(ますかた・かずま)

ますかた一真(ますかた・かずま)

占い芸人。2018年、株式会社ザッパラス主催の「占い芸人育成プロジェクト」で優勝。映画検定を持ち、運気を上げるラッキー映画をオススメする「映画占い」を考案。占い雑誌「マイカレンダー」(説話社)にてコラムを連載中。原宿の占い館「塔里木」にて対面鑑定中。

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