
対面鑑定、電話やチャット占い、テレビの今日の運勢、スマホ越しに見る占いコンテンツ、占い記事や占術の本……。さまざまな形で届けられる占いの裏側では、多くの人が働いています。わたしたちの目に触れる占いはどのようなプロセスを経てつくられるのか、その過程での工夫や苦労はどういったものなのか。占いの裏方仕事をお伝えします。

「フォーチュンカード・マーケット」の裏側
10月16日に第5回目となる占い雑貨とオリジナルカードの即売会「フォーチュンカード・マーケット」が開催されます。

春と秋の年2回開催される、占い界のコミケとも呼ばれる本イベント。運営の責任者であるたなかせいこさんの活動の根本にあるのは「占いが世の中でメジャーになってもらいたい」ということ。人気イベントが誕生するまでのストーリーやその思いについてうかがいました。
占いに詳しくない方にも
気軽に来て欲しい

今回で5回目の開催ですね。毎回、会場の雰囲気はどんな感じなのですか?
たなか思ったよりも若い方に来て頂いてますね。普段から占いに親しんでいる方のほかに、物作り系の専門学生さんや、コスプレ好きの方、サブカル好きな方なども多いです。
出展者は占いを習いたての方からプロの占い師の先生、またグッズだけを作られている方など様々です。占いに詳しい、詳しくない関係なく、カードや雑貨を通してワイワイ盛り上がるような、そんなフラットな場所になっています。

とてもユニークなイベントですよね。このフォーチュンカード・マーケットはどのようにして誕生したのでしょう?
たなかもともと前職の出版社にいた時に立ち上げたイベントです。最初の開催は2018年9月ですね。当時、私はイベント事業部にいて、約3年間占いイベントや占い講座を担当していました。
集客するには占いを深く知っている層だけではなく、一般の方々にも来て欲しい。じゃあ、どうしたらその方達の目に止まるのか。それを常々考えながら、新しいイベントの企画内容を考えていた時、とある会場の下見に行ったんです。そしたら、そこで偶然15年ぶりに友人と再会したんですよ。
すごい偶然ですね。
たなか彼女は和紙の会社を立ち上げ、その会場の2階にオフィスを借りていたのですが、その流れで物作りのイベントに誘われたんです。これが大きなヒントになりました。
形がない占いは
シェアしにくい
そのイベントはどんな印象だったのですか?
たなかまず会場のテンションがとても高かったんです。物作りをされている方達、それを楽しんでいる方達の活気に溢れていました。
友人の和紙作りのワークショップに参加して、そこにいた若い女の子達と出来上がった和紙を見せ合ったり、「和紙ってこうなってるんだね」と紙の手触りを確かめたり、と純粋に楽しむことができたんですね。目的なく行ったはずなのに、ついついほかの雑貨も買ったりしてしまいました。実は同じ日に、知り合いの占い師の先生が出演されている占いイベントにも参加したのですが、そこではやる事がなく、会場をぐるっと一周してすぐに出てしまったんです。
「やる事がない」といいますと?
たなか鑑定にお誘い頂いたりもしたんですが、私がその時具体的な悩みを持っていなかったので、その場に参加する事ができなかったんです。同じ「体験する」でも占いになると、参加しにくかったり、和紙作りのようなワークショップと違って周囲と一緒に楽しむ事が難しいと感じました。
その日、自宅に帰ってSNSを見ると、占いイベントは会場の写真がほとんど出てこなかったんですが、物作りイベントは「これ買いました」や「この作家さんの絵が可愛すぎる」という感想と写真でいっぱい。「形がない占いはシェアをしづらい」と気づいた瞬間でした。
なるほど。そこからカードに着目したのですか?
たなかはい。「見える、触れる」をテーマに「カードに関するもの」という枠組みを作りました。「カードやタロットクロスが可愛い」という所から気軽に入れますし、悩みがなかったり、占いに詳しくなかったりしもみんなで一緒に楽しめると考えました。

出展者の募集要項にも「販売物は目に見えるものでお願いします」という規定がありますよね。
たなか基本的にはSNSなどの画像検索で引っかかってくれるものにしたかったんです。占いをメジャーにしていくためには、占いをまずシェアできるものにしないと広まりづらいのではないかと考えました。 占い業界では「占いをもっと色んな人に分かって欲しい」という話を聞きますが、やっぱり形がないと入りにくい。それに「占いって深くて面白いんだよ」と伝えれば伝えるほど、一般の層の方は分からなくなるとも感じています。
例えるなら、占いに深く入り込んだ層と一般の層は、海の魚と陸の動物くらい住んでいる場所に違いがあるように思っていました。
海も陸も交わる
「浅瀬」を作りたい
海の魚と陸の動物…わかりやすいですね。
たなかだからこそフォーチュンカード・マーケットは、その中間地点である「浅瀬」のような場所にしたいと、当初から考えていました。「占いに詳しくないけど面白そう!」というテンションで入ってきて欲しかったんです。
深海の魚が「海底はいい所だよ」と言っても、陸の上の動物にはまったく伝わらないし、足を踏み入れにくい。でも「浅瀬」となる場所を提供する事で「海って意外といいな」「深海ってどんな所?」と興味を持ってもらうきっかけにしてもらう。それで気になった人がいれば、その先に進んでもらう。そんな占いの世界の住人と一般の世界の住人の境界線をなくす場所を作りたいと思い描いていました。
世に発信するための
インフラとしての役割も

オリジナルカードの即売会にしているのも何か意味があるのですか?
たなか前職の出版社にいた際に、書籍の出版講座を開いたんです。すると、「書籍ではなくてカードを作ってみたい」という声が多く寄せられまして。そこからカード製作講座に切り替えた事がありました。
「占いはわからないけれど、カードのイラストを描いてみたい」という声をよく聞きますね。
たなか皆さん、自分の思っているものを結晶にしたい気持ちや、作品として世に出したいという気持ちをどこかに持っているのだと思います。
昔は出版社やメーカーの力を借りなければ、そういう事が叶わなかった。でも今は小ロットで個人製作を請け負ってくれるサービスもあります。選ばれた人しかそれを叶えられない世の中ではありません。
であれば、世の中に発信するインフラとして会場を提供できればと考えました。そこから私も作ってみよう!という人が出てくるかもしれません。違う角度から占いが活性化していけばいいなと思いました。
ちなみに、これからもリアルイベントにこだわっていく予定ですか?
たなか重きをおいていますね。例えばTwitterなどで気軽に繋がりができた後、実際に会って言葉を交わせた時に、人と人とがやっと繋がる感じがするんです。
実際に会場に来る事で「この先生ってこんな声だったんだ」とか「このカード意外と大きなぁ」というのがわかると思います。そういう現実の体験も、占いを発展させる上で大事にしていきたいですね。
みんなが占いを楽しめる
文化を作りたい
今後の野望はありますでしょうか?
たなかわかる、わからないという世界ではなくて、みんなが占いを楽しめるような、そんな文化を作っていけたらと思っています。
言葉や物でも、占いが色々と表現を変える事で、様々な人に広まっていく可能性があります。その表現の受け皿となる場所、またそれをみんなで楽しめる場所を提供し続けていけたらと考えています。
占いをみんなが楽しめる場所を作り上げるたなかさん。マーケット会場内での占いの講演など、今後も占いが多くの一般層の目に触れる機会を作っていきたいと語ります。その真っ直ぐで丁寧な姿勢に、希望を抱かずにはいられないインタビューとなりました。
2021-10-07